アニマルスピリッツの低下に対して、移民が解決策になり得るのか?

アニマルスピリッツの低下に対して、移民が解決策になり得るのか?

日本経済の問題点は、「人口減少」と「アニマルスピリッツ」の低下です。「アニマルスピリッツ」とは、経済学でいう、「不確実な状況下で経済を動かす人間の非合理的な衝動や野心的意欲」を指します。

「人口減少」を補うために、移民が試みられ、移民がもたらすものは、単なる労働力の補完であると信じられています。企業が移民に期待するのは、不足する日本人労働者の代わりになる労働力です。しかし、日本人が薄々気づいているように、移民はそれ以上に日本に刺激をもたらす存在となるのです。スイスの作家マックス・フリッシュ(Max Frisch)1の1965年の言葉にあるように「我々は労働力を求めたが、やってきたのは人間だった」のです。移民は、単なる労働力の補填ではなく、文化の移植であり、さらには、日本からなくなりつつある「アニマルスピリッツ」を取り戻すことにもなる存在なのです。

50年後(2070年代)の日本では、出生率が現状水準に近いままなら、総人口は 8,000万人前後(86,996人)2、生産年齢人口は 現在の6割以下になるとの推計が一般的です3(そしてその後もさらに年々人口は減少します)。外国人移民の増加は、労働力不足の緩和、社会保障の担い手確保、地方・産業の空洞化防止という点で、人口減少の「スピード」と「深刻度」を確実に和らげる存在です。この点では、移民は「人口問題に対する数少ない即効性のある手段」です。しかし一方で、労働人口が減少しても、産業の規模を縮小し、小さくまとまれば良い、現在のスイス、シンガポールのように小さくまとまればよいとの考えもあるでしょう。しかし、小さくまとまるにも、その国に「活力」がないと話にならないのです。

「人口減少」とともに、もう一つの「活力」の問題である、「アニマルスピリッツ」の低下は、日本にとって、さらに深刻です。人口減少以上に重要なのが、心理・行動面への影響であり、人口構成の高齢化で、決断力、挑戦力、リスクを取る力が低下することは日本人がすでに経験していることです。これに対して、外国人移民は一般に、母国を離れる決断をして、言語・文化の壁への挑戦を行い、不安定な環境での生活を選択してきた人々です。これは経済学的に言えば、リスクを受け入れる行動的な集団です。こうした人々の存在は、社会全体の「挑戦が普通」という空気を強める効果があります。

移民の増加は次のような変化ももたらすでしょう。自営業・小規模ビジネス起業率の上昇、若年層・子育て世代の消費増、新しいサービス・文化・嗜好の流入、労働市場の流動化(転職・賃上げ圧力)。これらはすべて、日本で弱まっているアニマルスピリッツの核心部分です。つまり、「慎重で動かない社会」から 「多少失敗しても動く社会」への心理的転換が起こり得るのです。

興味深いのは、移民は「移民自身」だけでなく、日本人の行動にも影響を与える点です。つまり、周囲が挑戦しているので、自分も動いてよいという許可、多様な価値観があることは失敗への寛容さをもたらします。人口減少社会では、「どうせ先がない」という諦めがアニマルスピリッツを冷やすが、移民の定着は、「人が減らない社会=未来がある社会」という認識を回復させる効果を持ちます。

ただし「条件」があります。重要なのは、以下の条件を欠くと逆効果になり得る点です。移民が中心から外れた周縁労働力として位置づけられること、低賃金、不安定な在留資格、社会参加の制限、こうした扱いでは、社会不安、分断、反移民感情を生み、むしろアニマルスピリッツを引き下げます。

従って、アニマルスピリッツを高めるのは、定住・家族形成・社会参加が鍵になり、定住、子育て、起業、地域参加が可能な移民です。「労働力としての移民」ではなく「社会の一員としての移民」である必要があります。50年後の日本において、移民は「心理の人口増」をもたらし得る存在です。人口減少は、移民によって部分的に緩和可能で、アニマルスピリッツ低下は、移民によって回復する可能性が高いと言えます。特に重要なのは後者です。人が増えること以上に、「未来に希望を持ち、未来を前提に生きる人が増えること」これこそが、移民がもたらしうる最大の効果です。

  1. マックス・フリッシュ ゲルハルト・P・ナップ(ユタ大学)https://www.litencyc.com/php/speople.php?rec=true&UID=1641 ↩︎
  2. 国立社会保障・人口問題研究所・研究事業「人口統計資料集(2026年版)」https://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/Popular/Popular2026.asp?chap=1 ↩︎
  3. 国立社会保障・人口問題研究所・研究事業「人口統計資料集(2026年版)」https://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/Popular/Popular2026.asp?chap=2 ↩︎

橋本俊明

「brIDge」主筆/公益財団法人橋本財団 理事長

1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。