日本医療の供給側の構造的問題点

医療費の増加をどうするかについて、自民党と維新の合意でも、高齢者の負担割合を引き上げるなどの、医療に対する支払い金額を増加させるための提案は見られるが、供給側つまり、医療費自体を削減する提案は少ない。1医療費の議論では患者負担の増加ばかりが語られる。しかし、本当に問われるべきは「医療をどう支えるか」という供給側の構造ではないだろうか。医療の構造については、日本医師会あるいは厚労省の専門家内での議論のみで、一般に広く行われることは少ない。

日本の医療機関は179,834ヵ所あり、うち一般診療所104,894ヵ所、歯科診療所66,818ヵ所、病院8,122ヵ所(うち一般病院7,065ヵ所、精神科病院1,057ヵ所)など(2023年、厚生労働省 令和5年医療施設調査2)である。

【図1 日本の医療機関】

では、日本の医療がどのような構造になっていて、何を直せばよいのか? 諸外国との比較によって見ていこう。まず、最近人手不足が言われているが、日本の医師、看護師数は諸外国と比べてどうだろうか? データはいずれも厚生労働省医政局地域医療計画課「医療提供体制の国際比較 OECD加盟国との比較」(第3回地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループ 参考資料3、令和4年3月2日、データはOECD Health Care Resources 2021年)によるものである3

【図2 人口千人あたりの医師看護師数】

厚生労働省医政局地域医療計画課資料より著者作成。以降同じ

図2で示されるように、医師、看護師不足が問題になるほどには、日本全体としてみれば、人口当たりの医師・看護師数は他の先進国と極端な差はないことがわかる。

【図3 人口千人当たりの総病床数】

一方で図3のように、人口千人あたりの病床数は、他の先進国が2から8に対して、日本は13と突出して多い。病床が多いことは良いことだと思われるかも知れないが、病床が多ければ、病床1床あたりの医師、看護師数が少なくなることを意味する。それは、以下のようなグラフに現れる。

【図4 病床100床あたりの医師・看護師数】

図4のように、1病床あたりの医師看護師が少ないことは、集中して治療し、回復を図るためには不都合である。その結果、患者の在院日数(図5)は他の国が5〜6日であるのに対して、日本は、平均入院日数は25日以上、急性期治療でさえ、15日以上になっている。

【図5 在院日数】

以上でわかるのは、日本では国民一人あたりの医師看護師は先進諸外国と同じであるが、病床数が極端に多いために、1病床あたりの医師看護師が少ないことが問題となっている。以上の結果から考えると、その解決方法は明らかで、病床数を少なくすることだ。1日あたりの費用が少なくても、1入院あたりの費用は、入院期間が長いために、先進諸外国よりも高くなっている(図6)。

【図6 1日入院医療費と1入院あたりの総医療費】

これらの内容を総合すると、日本の医療費、特に急性期医療の問題は、入院日数の問題であり、日本の急性期医療改革の本質は、入院日数を短縮し、その結果として必要病床数を減らすことである。なお、ここで注意しなければならないのは、日本の病床が多い原因は急性期病床だけではないことである。日本の病床過剰は、精神病床と高齢者向け療養病床が現在でも極めて多く維持されていることによって支えられている(図7)。

図7 種類別病院病床数の推移

厚生労働省「医療施設(静態・動態)調査」各年次(昭和59年〜令和5年)4

精神医療については違いが明らかである。他のOECD諸国では、精神医療は地域生活を中心とした支援へ移行し、長期入院は大幅に減少してきた。その結果、人口当たりの精神病床数は日本の半分から数分の一程度である国が多い。一方、日本では約32万床もの精神病床(2023年:318,921床)が、他のOECD諸国と比べほとんど減少せず維持されており(図8)、人口当たりではOECD加盟国の中でも突出して多い。

【図8 千人あたりの精神病床数】

OECD『Health at a Glance 2023』(Health Care Resources – Psychiatric care beds、2021年)、参考:中医協 総-3「個別事項(その6)精神医療について(その1)」令和5年11月22日、p.75

高齢者を中心とした療養病床についても、日本の特徴は明瞭である。国によって病院と介護施設の区分が異なるため厳密な比較には注意が必要だが、OECDの長期ケア病床の分類によれば、日本では病院病床の20.1%が長期療養に用いられていた。これはOECD平均の12.3%、フランスの7.8%、アメリカの3.3%を大きく上回る。さらに2021年の比較でも、日本では長期ケア病床の23%が病院内に置かれている。6 多くの国が長期ケアを介護施設や在宅サービスで支えているのに対し、日本では病院が治療の場であると同時に、長期的な生活の場としても使われてきたのである。

このように日本での医療は、供給側に対する改善政策の余地が極めて大きい。支払側の改革は「簡単に」決められるが、供給側の改革は長期にわたり、方針を明らかにして行う必要がある。

  1. 日本維新の会「社会保障改革項目に関する具体的な骨子について与党間で合意しました」(2026年7月7日)https://o-ishin.jp/news/2026/07/07/18448.html ↩︎
  2. 厚生労働省「令和5(2023)年医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況」(2024年11月)https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/23/ ↩︎
  3. 厚生労働省「医療提供体制の国際比較 OECD加盟国との比較」(2022年3月2日)「https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000905110.pdf ↩︎
  4. 厚生労働省「医療施設調査・病院報告(結果の概要)」https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/79-1a.html ↩︎
  5. 出典:OECD『Health at a Glance 2023』(Health Care Resources – Psychiatric care beds、2021年)
    参考:中医協 総-3「個別事項(その6)精神医療について(その1)」令和5年11月22日、p.7https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001169812.pdf ↩︎
  6. OECD「Health at a Glance 2023 Japan Country Note」https://www.oecd.org/content/dam/oecd/en/publications/reports/2025/07/health-at-a-glance-2023_39bcb58d/japan_0b0de6bb/1b4f5f1d-en.pdf ↩︎

橋本俊明

「brIDge」主筆/公益財団法人橋本財団 理事長

1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。