当事者インタビュー(1)
インドネシア送り出し機関が語る、日本の外国人政策と「選ばれる人材」への転換
インタビュー実施:2026年8月5日
日本の外国人労働者受け入れをめぐる環境が変わりつつある。日本語能力や技能に対する要求は高まり、外国人を受け入れる制度そのものも、より厳格な管理と質を重視する方向へ動いている。その一方で、日本社会では外国人の増加をめぐる議論が活発になり、SNSなどを通じて外国人に否定的な言説や排外的な主張に触れる機会も増えている。
こうした変化を、日本へ人材を送り出す側はどのように受け止めているのだろうか。
インドネシアの送り出し機関Flora Talent Indonesia1は2024年6月に設立され、主に介護分野を中心として、これまで約200人を日本へ送り出してきた。ジャカルタとボゴールに拠点を持ち、日本語教育や寮生活を含めた渡日前教育を行っている。送り出された人材の主な就労先は関東地方で、一部は関西地方にも広がる。同社のEko Setiawanさんは、長年にわたり日本への人材送り出しに関わってきた。その目には、現在の日本の変化は単なる「外国人への門戸の縮小」とは映っていない。むしろ、日本が求める外国人材のあり方そのものが変わり、それに合わせてインドネシア側も変化を迫られているという。
「厳しくなった」のは事実――それでも悪い変化とは限らない
日本の外国人労働者政策について尋ねると、Ekoさんはまず「以前より厳しくなっている」と率直に認めた。「私が見ている限り、年々厳しくなっています。外国人労働者を受け入れる基準もそうですし、技能のレベルも以前よりきちんと見られるようになっています。日本語についても、一定の水準を求められるようになりました」
送り出し機関にとって、この変化は非常に現実的な問題である。
かつて技能実習を中心としていた時期には、日本語を3~4か月程度学習して出国するケースもあった。しかし、特定技能などの制度では、候補者本人が一定の日本語能力と技能を証明することが求められる。Ekoさんによれば、日本語をゼロから学ぶ場合、N52やA1・A234程度のレベルに到達するためにも、少なくとも6か月程度を必要とする場合が多い。もちろん、学習期間は全員同じではない。「日本語や技能というのは、6か月勉強したら全員が同じレベルになるわけではありません。本人の能力によります。6か月で合格する人もいますが、7か月、8か月勉強してもまだ試験に受からない人もいます」
実際に、同社が扱う介護分野の候補者の中にも、7~8か月勉強してなお試験合格に至らないケースがあるという。送り出しまでの期間が延びれば、教育を担う機関の負担も当然大きくなる。
それでもEkoさんは、日本側の基準が厳しくなること自体を批判しない。「私は悪いことばかりではないと思います。外国人なら誰でもいい、とにかく人が足りないから受け入れる、というやり方ではなくなる。日本も世界から、単に安い外国人労働力を受け入れている国だと見られるのではなく、きちんと基準を持って受け入れる。その意味では、制度が整理されるのは良いことだと思います」
この発言から見えてくるのは、送り出し機関が日本の政策変化を必ずしも「規制強化対送り出し国」という対立構造で捉えていないことである。
日本側が人材の「量」以上に「質」を求めるのであれば、送り出す側も従来と同じ方法では対応できない。それがEkoさんの基本的な認識である。
「ただ送ればいい時代ではない」――送り出し機関にも求められるカイゼン
日本の要求水準が上がれば、最も直接的に影響を受けるのが候補者の教育である。
Flora Talentでは、企業側へ候補者を紹介する前にスクリーニングを実施している。学歴だけでなく、過去の日本渡航歴や技能実習経験などを確認し、以前日本で問題を起こした経歴などが判明すれば、候補者として受け入れないこともある。
しかし、選考を厳しくするだけでは十分ではない。「日本語だけではありません。マナーも必要ですし、メンタル、規律、仕事に対する態度も教えます。日本で生活して働く以上、語学だけできてもだめなんです」
Ekoさんが繰り返し使った考え方の一つが、「改善する」という言葉であった。日本が外国人政策を厳しくしているからといって、それを送り出し事業への「脅威」とだけ捉えるべきではないという。「単純に脅威だとは思っていません。私たち自身がもっと良くならないといけないということです。質を上げる。自分たちを改善する。日本語で言えば”kaizen”ですね」
その「改善」は、候補者だけに向けられたものではない。教える側の質も問題になる。地方の日本語教育機関では、技能実習経験者などが日本語教師を務め、再び日本へ働きに行くことで教師が定着しないケースもあるという。そのためFlora Talentでは、日本語専攻などの大学卒業者を採用し、教師自身の資格や教授能力を高めることにも取り組んでいる。
一方、教育には相応のコストがかかる。同社では、ゼロから日本語を学び、JFTなど必要な試験と技能試験を受けるところまでを含め、寮費・食費込みで約4,000万ルピアの費用が必要になるという。教育期間が長くなれば、送り出し機関の運営コストも高まる。しかし、試験に合格できない候補者を途中で切り離すわけにもいかない。こうした状況の中で、送り出し機関は単なる人材仲介業者ではなくなってきている。候補者を募集し、日本の求人に合わせて送り出すだけではなく、日本で働き続けられる人材へと育成する役割が強くなっているのである。
そして、その背景には送り出し国同士の競争もある。
Ekoさんによると、日本側のパートナーからは制度変更についての情報だけでなく、他国の人材をめぐる動向についても情報が伝えられるという。「日本側から、『今はインドネシアだけではないですよ』と言われます。私たちが候補者の質を上げなければ、企業はほかの国へ行くかもしれない、と。そういう話はあります」
ベトナムやミャンマーに加え、バングラデシュ、パキスタン、スリランカ、ネパールなど、新たな送り出し国も日本市場に入ってきている。「例えばバングラデシュの人たちは語学ができると言われています。インドネシア人にも良いところはたくさんあります。でも、『インドネシア人だから当然選ばれる』とは思わないほうがいいと思います。つまり、日本の外国人政策の厳格化は、送り出し国間の競争をより「人数」から「人材の質」へと移行させつつあるのである。

排外的言説は「日本離れ」を生んでいるのか
もう一つ注目されるのが、日本社会における外国人をめぐる言説の変化である。
外国人の増加については、日本国内でもさまざまな意見がある。地域社会への影響や制度のあり方を問題視する議論がある一方、SNS上では外国人を一括して問題視するような排外的な言説が現れることもある。
こうした日本の状況は、インドネシア側にもSNSを通じて伝わっている。Ekoさん自身も日常的に日本の情報を確認しているという。「SNSはよく見ます。夜、寝る前にも日本で何が起きているかチェックします。私たちの学生はいろいろな地域に行っていますから、日本の状況はできるだけ見ています」
それでは、外国人への厳しい視線が広がることで、日本へ行きたいという若者は減っているのだろうか。
Ekoさんの答えは明快であった。「今のところ、そういう影響はほとんどありません。新しい求人を出すと応募してくる人はまだ多いです。日本社会の状況が怖いから行くのをやめる、という人も、私たちのところでは今のところいません」実際、同社では外国人に対する社会的な風当たりを理由に渡航をキャンセルした候補者は確認されていない。また、すでに日本で働いている人たちからも、差別や外国人に対する扱いに関する深刻な相談は、現在のところ大きな問題として寄せられていないという。
むしろ、日本側から送り出し機関へ届く指摘は別のところにある。「今までのところ、会社から差別されたとか、外国人だから嫌な扱いを受けたという相談はあまりありません。逆に、日本側から私たちが言われるのは、学生の質ですね。もっと日本語を伸ばしてほしい、マナーを身につけてほしい、仕事への姿勢をもっと良くしてほしい、という話です」
ここには、日本国内で語られる「外国人住民をめぐる課題」と、送り出し現場が直面している問題との間に興味深いズレがある。日本の政治やSNS空間では外国人をめぐる議論が強まっている一方、インドネシアの候補者にとっては、日本語試験に合格できるか、良い仕事が見つかるか、日本でどのような生活を送れるかといった、より具体的な問題のほうが切実なのである。
出国前には、候補者本人だけでなく家族を交えた説明会も行う。「親御さんからは、『日本に行ったらどこに住むのか』『病気になったらどうするのか』『何かあったら誰が助けてくれるのか』という質問はあります。でも、外国人政策がどうだとか、排外的な動きについて細かく聞かれることは、今のところあまりありません」
だからといって、排外的な言説を軽視してよいということではない。ただ、少なくとも今回の送り出し機関の現場から見える範囲では、それが直ちにインドネシア人の「日本離れ」につながっているわけではない。
むしろ、日本は今も、海外で働きたいインドネシアの若者にとって有力な選択肢であり続けている。
「送り出す側」の制度にも課題
インタビューの中でEkoさんが最も厳しい口調になったのは、日本の外国人政策について話している時ではなかった。話題がインドネシア国内の送り出し制度に移った時である。「実は、私たちが大変なのは日本側だけではありません。自分たちの国の行政の問題もあります。許可や書類の手続きが非常に複雑です」
特定技能などの人材を送り出す場合、求人に応じてSIP2MIをはじめとする行政手続きが必要となる。複数の行政機関が関係するため、手続きに数か月を要する場合もあり、省庁間のシステムが十分に連携していないとEkoさんは指摘する。「オンラインになっていると言われても、結局また書類を出さなければならないことがあります。省庁同士のシステムもまだ完全にはつながっていません。一つの求人を処理して、また追加の求人が来たら最初から時間がかかる。だから私たちも、一年間で必要になる人数をある程度まとめるように工夫しています」
インドネシア政府の支援について10点満点で評価してほしいと尋ねられると、Ekoさんは「5点」と答えた。しかし、インドネシア政府への期待は「手続きを簡単にしてほしい」ということだけではない。
送り出す人材の質を高めるのであれば、日本語教育そのものへの公的支援も必要だとEkoさんは考える。「日本へ行きたい若者はたくさんいます。でも、勉強するためのお金がない人もいます。政府が日本語研修を支援して、もっと安く勉強できる機会を作ってくれれば、多くの若者にチャンスができます。私たち送り出し機関にとっても、そのほうが良いです」
さらにEkoさんは、インドネシアと日本の人材交流を、現在の技能実習や特定技能だけに限定すべきではないと話す。高校や職業高校、大学と企業を結ぶインターンシップなど、若者が早い段階から日本の職場や文化を経験するルートを広げることも一つの方法である。「例えば一年間のインターンシップがもっと広がればいいと思います。今はサービス分野などが中心ですが、製造業など、もっと多くの分野に広げることができれば、学生にも良い経験になると思います」
日本へ人材を送り出すまでには、語学学習から試験、求人とのマッチング、行政手続きまで、通常でも6~9か月程度を必要とする。それでも日本への関心は依然として高いという。
背景にあるのは、単に「日本で数年間働く」という目的だけではない。
介護分野であれば、日本で経験を積み、介護福祉士などの資格取得を目指すことで、より長期的なキャリアにつながる可能性もある。Flora Talentでは、こうした将来の選択肢についても募集の段階から候補者に説明しているという。「最初から、5年だけ働いて終わり、という説明はしていません。本人が頑張って資格を取れば、日本でもっと長く働ける可能性があります。そういう道があることも伝えています」
日本社会における外国人への視線は、今後さらに厳しくなる可能性もある。受け入れ制度も、外国人であれば誰でも歓迎するという方向には進まないだろう。しかし、Ekoさんの語りから浮かび上がるのは、「日本が外国人に厳しくなったから、インドネシア人が日本へ行かなくなる」という単純な構図ではない。
むしろ、送り出しの現場では別の変化が進んでいる。
これまでのように、「何人送り出せるか」だけを競う時代から、「どのような人材を育て、日本社会に送り出せるか」を競う時代への転換である。その変化について、Ekoさんは最後まで一貫した姿勢を示した。「日本が厳しくなったから終わり、ということではないと思います。日本が求めるものが変わるなら、私たちも変わらなければならない。正しいプロセスで、きちんとした人材を送る。ただ人をたくさん送ればいいわけではありません。私たち自身がもっと良くなることが大事です」
日本の外国人政策の行方を考える際、受け入れる日本社会だけを見ていては見えないものがある。外国人材の背後には、送り出し国での募集、教育、費用負担、行政手続き、そして家族を含めた長い準備過程が存在する。日本の制度が「外国人を何人受け入れるか」から「どのような外国人と共に働き、暮らしていくのか」へと問われるようになっている現在、送り出す側もまた、「何人日本へ送るか」から「どのような人材を送り出すのか」へと、その役割を変え始めているのである。
(現地取材 Andi Holik Ramdani)
- PT Flora Talent Indonesia https://www.ysfloraindonesia.com/ ↩︎
- 日本語能力試験JLPT「N1~N5:認定の目安」https://www.jlpt.jp/sp/about/levelsummary.html ↩︎
- 日本語能力試験JLPT「CEFRレベル参考表示」https://www.jlpt.jp/sp/about/cefr_reference.html ↩︎
- ヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR)「世界規模 – 表1(CEFR 3.3):共通参照レベル」https://www.coe.int/en/web/common-european-framework-reference-languages/table-1-cefr-3.3-common-reference-levels-global-scale ↩︎






















