秩序ある共生とは?改正入管難民法を受け地方自治体が考えるべきこと(前編)

多文化共生の専門家・田村太郎が語る、自治体が直面する現実と可能性

「値上げする手数料は一般財源に消える?」——参考人が語った入管改正の矛盾と、20年遅れで始まる社会統合

インタビュー実施:2026年6月3日

2026年5月、参議院法務委員会に参考人として招致された田村太郎氏は、在留手数料の大幅引き上げについて政府説明の「矛盾」を正面から指摘した。「引き上げられる手数料は一般財源に入るので、そのまま外国人との共生社会に使われるわけではない」——。

田村氏は2020年度から内閣府「外国人材の受け入れ・共生に関する有識者会議」の構成員を務め、国と現場の間に立ち続けてきた。今回の改正が掲げる「秩序ある共生」という言葉はどこから来て、何を意味するのか。有識者会議で毎年繰り返されてきた「データがありません」という壁とは何か。そして20年遅れで始まる社会統合プログラムは、自治体に何を求めるのか。

インタビュー当日の2026年6月3日、研修講師として氏が訪れていた鳥取県米子市内で話を聞いた。前編では、参考人招致での主張と外国人政策の現状、データ整備の課題、社会統合プログラムの始まりを中心にお届けする。自治体が「何をすべきか」という実装論は、後編に続く。

秩序ある共生とは?改正入管難民法を受け地方自治体が考えるべきこと(後編)

第1部 参考人招致で何を訴えたか——「秩序ある共生」の意味と政策の矛盾

参議院の参考人招致では、どのようなことを陳述されたんですか?

私は法改正そのものは必要だと言いました。ただ、値上げの金額や時期について、きちんと議論する場を作るということと、経済的に厳しい世帯には減免措置を講じること——これは付帯決議にもついているんですが——じゃあ誰が減免対象になるのか、どうやって決めるのかっていう方法がないわけですよ。今年度中にもう値上げするって話なのに。

だから私がずっと主張しているのは、アセスメントをしろということです。入国時、あるいは長期登録時に世帯のアセスメントをして、減免措置が必要かどうかを確認する。災害ケースマネジメントと同じ発想です。

JESTA1の収益については、どのように主張されましたか?

JESTAで浮いたコスト——つまり入国の厳格化によって不法滞在者の摘発・送還コストや人員が減る分——を、中長期滞在者の支援に回せということを参議院で言いました。

ただ、そもそも「手数料」という名称自体が矛盾しているんです。例えば運転免許の更新手数料は各県の公安委員会に入ります。でも入管の手数料は、名前は手数料だけど、実際には全額が一般財源に入ることになっている。外国人との共生社会に財源が必要と入管庁は説明したのだけれど、値上げ分を外国人との共生社会に充ててほしいと私も思いますが、それはある意味「希望」でしかない。財務省が消費減の減収分に充てるとの報道も出ている。そこは衆参両院で野党の先生が指摘したとおりで、そこは政府の説明は矛盾しているんです。

「秩序ある共生」という言葉が政策のキーワードになっていますが、この言葉をどう評価されますか?

うまいこと言ったな、と思っています。2025年の骨太の方針2から出てたもので、石破政権のときに入った言葉です。「秩序ある」という部分については、今まで外国人支援をしてきた人たちが「秩序を重んじて共生がないがしろにされる」と警戒するんだけど、そこはミスリードだと思う。「秩序」の反対は「共生」ではなく「無秩序」ですから。

「秩序ある共生」でひとくくりの言葉なんですよ。共生がなくなったわけじゃない。

ただ、いやらしいのは「今、無秩序だから秩序にしたい」という空気があって、そこに「秩序」という言葉がくっついているという部分ですね。例えば、埼玉県川口市におけるクルド人住民をめぐる課題を「無秩序だ」として、地元の先生たちから「秩序ある」という言葉が出てきたのではないかと思う。

「管理」にせずに「秩序」にしたのは、ニュアンスを考えたんじゃないかと思います。それ自体は評価します。ただ、直近の自民党の提言では「共生」という言葉がなくなっています。そこはよく注意しないといけない。「共生」を進めたら「無秩序」になるというのもミスリードです。

2026年5月29日には総務省が新たな研究会を立ち上げたと聞きました。

そうです。総務省国際室が2005年度から「多文化共生の推進に関する研究会」3というのを2020年までずっとやってきていて、私は全ての研究会でメンバーでした。しばらく間が空いていたのですが、このたび名称を「地域における外国人との秩序ある共生社会の実現のための研究会」に変えて2026年5月29日に第1回を開いています。4

総務省も「多文化共生」という看板を下げ、「秩序ある共生」に陥落したかと(笑)ちょっとびっくりしました。それだけこのキーワードが政策全体に浸透しているということですね。

有識者会議のメンバーとして、これまでの政策プロセスはどう見てきましたか?

2018年の閣議決定5で関係閣僚会議6ができて、2020年度から有識者会議が始まりました。2021年にロードマップの基になる意見書を出して、2022年度から5年間のロードマップ7がある。今年がロードマップの最終年です。

このロードマップに沿って、毎年、各省庁が200近くの施策について「今年度これやりました」とエクセルで送ってきて、有識者がコメントをつけて返すという作業をずっとやってきた。ただ率直に言って、BGMになってしまっている。毎年点検はしているのに、実態は変わっていない部分が多い。

第2部 「データがありません」——有識者会議で繰り返された壁

有識者会議で最も問題を感じたのはどの点ですか?

データがないことです。2023年11月の関係閣僚会議で、健康保険の未収・未納率のデータ、生活保護の数字、犯罪検挙率のデータ、土地取引のデータなど、議員の先生からの要望で政府は色々なデータを出したんですが、「正確なデータがありません」というのが率直な答えだった。国民健康保険の未収率は日本人より高いとされたが、全国的な統計はなく抽出調査。社会保険との突合もできていない。年金もです。

私は2020年度から毎年、介護保険や年金の外国人の加入状況を知りたいと言い続けてきた。なぜ出てこないのかと聞くと、毎度毎度、厚労省は「国籍別ではデータはありません」と書いてくる。ないわけがないでしょう、と思うんですが。

その結果、現在どんな問題が生まれていますか?

「国保の未納が高いじゃないか」という意見に対して、「有効なデータはありません」という答えしか出せない。代わりに、いくつかの自治体にヒアリングしたところ6割でした——日本人は9割だから確かに低い——という、モヤっとした数字だけが出てきた。8

自治体の住民票を見れば、国保に入っていないことはわかる。でも、会社の社会保険(社保)の加入状況はわからない。国保と社保のデータが統合できていないんですよ。統合すらできていないのに、外国人がフリーライドかどうかの確認のしようがない。

実際に「制度から零れ落ちてしまっている」人の具体例はありますか?

今年度、愛知県の国際交流協会と一緒にやるワークショップのテーマが、まさに高齢化した日系人の相談支援です。30年前に日本に来て、2ヶ月契約の派遣労働を30年やっているという人がいる。2ヶ月契約というのがミソで、雇用保険もかけなくていい。社保にも入れてもらえないまま、年金も健康保険も納めずに年を重ねてしまった。

3ヶ月契約なら雇用保険をかけろとルールができたら、2ヶ月にされてしまった。本人はフリーライドするつもりはなかった。でも今や帰る国もない。糖尿病が悪化して目が見えなくなって警察に保護される高齢外国人がいるわけです。この人たちは率直に言うと生活保護になる。それで「外国人は日本の制度をただ食いしている」と言われたらたまったものじゃないですよ。30年間ちゃんと会社が年金や健康保険料を納めていたら、何の問題もなかったのに。

これは外国人をめぐる課題じゃない。2ヶ月契約の派遣労働で年老いていく日本人だってたくさんいる。雇用契約の問題なんです。

第3部 社会統合プログラム——20年遅れで始まる国の責任

今回の改正で「社会統合プログラム」が導入されますが、これはどのようなものですか?

2000年代半ばからヨーロッパ諸国がやっていて、韓国もやっている。910日本はこれから20年遅れでやるわけです。1月に発表された「総合的対応策」では、日本語と社会規範を学ぶプログラムを創設して、在留資格の更新に紐づけるということが決まっている。自民党PTの提案では、入国前から受けられるようにするということも入っています。

せっかく今からこれをやるなら、20年前にはなかったAIやリモートの技術を徹底的に取り入れないといけない。アナログでなくデジタルでやってコストも下げる。2025年6月の骨太の方針から、「デジタル技術の活用」は外国人との共生社会の実現にずっと入って明記されていますから。11

自治体の現場に与える影響はどの程度ですか?

圧倒的に事務量が増えます。引っ越してきた住民に対して、社会統合プログラムをどこまで受けているか確認しなきゃいけない。まだ受けていなければ受けるよう促す。在留資格の更新と紐づけるということですから、その情報も載せなきゃいけないし、手数料を払えない人の減免措置の判断もしなきゃいけない。そんなこと、入管だけでできるわけがない。

実は政府の「総合的対応策」は今年の1月が初めてではなく、2018年末から毎年出されています。12自治体は2019年度から、日本語教育や相談窓口にかかる費用を、各省庁の交付金を活用して賄うことができるようになっています。ただ問題は、これが法定事務じゃないということです。男女共同参画や障害者支援は「やらねばならない」と法律で定められている。でも多文化共生の分野は、別にやってもやらなくてもいい仕事なんです。だから自治体内でどの部署が対応するのかもはっきりしない。国際交流の担当課がない自治体がほとんどだから、福祉なのか市民課なのか、という話になってしまう。

後編 「地域の腕の見せ所」——自治体が秩序ある共生を実装するために へ続く

  1. 米国が導入した電子渡航認証システムの日本版(Japan Electronic System for Travel Authorization)【参考】電子渡航認証制度(ESTA)の調査研究についてhttps://www.moj.go.jp/isa/immigration/resources/02_00012.html ↩︎
  2. 内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2025」https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2025/decision0613.html ↩︎
  3. 多文化共生の推進に関する研究会 報告書 ~地域における多文化共生の推進に向けて~https://www.soumu.go.jp/kokusai/pdf/sonota_b5.pdf ↩︎
  4. 地域における外国人との秩序ある共生社会の実現のための研究会https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/chiikiniokerugaikokujintonochitsujoaru/index.html ↩︎
  5. 平成30年6月15日、「経済財政運営と改革の基本方針2018~少子高齢化の克服による持続的な成長経路の実現~」(骨太方針)https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2018/decision0615.html ↩︎
  6. 外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議https://www.cas.go.jp/jp/seisakukaigi/gaikokujinzai/kyosei/index.html ↩︎
  7. 外国人との共生社会の実現に向けたロードマップhttps://www.moj.go.jp/isa/support/coexistence/04_00033.html ↩︎
  8. 自民党外国人材等に関する特別委員会と在留外国人に係る医療ワーキンググループの合同会議2025年4月22日「在留外国人の保険料未納 対応強化を」https://www.jimin.jp/news/information/210445.html ↩︎
  9. 大韓民国 社会統合プログラムhttps://www.socinet.go.kr/soci/main/main.jsp?MENU_TYPE=S_TOP_SY ↩︎
  10. 独立行政法人労働政策研究・研修機構 外国人労働者と社会統合:EU欧州における移民受入れと社会統合の展開https://www.jil.go.jp/foreign/labor_system/2007_2/eu_01.html ↩︎
  11. 経済財政運営と改革の基本方針2025についてhttps://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2025/2025_basicpolicies_ja.pdf ↩︎
  12. 出入国在留管理庁 外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策(過去の資料)https://www.moj.go.jp/isa/support/coexistence/nyuukokukanri01_00140.html ↩︎

田村 太郎

一般財団法人ダイバーシティ研究所 代表理事

内閣府「外国人材の受け入れ・共生に関する有識者会議」委員。2020年より同会議メンバーとして政策立案に関与。2026年5月、参議院法務委員会に参考人として招致。全国の自治体・企業に向けた多文化共生の実践に取り組んでいる。