最近各省庁が外国人に対する規制を強めている。一つひとつの制度だけを見れば、それぞれに理由がある。
永住許可の取得要件を引き上げること、あるいは取消事由を広げること、留学生の資格外活動を厳格に監視すること、就労ビザや留学ビザの要件を見直すことなどに対しても、行政は「外国人を嫌っている」のではなく、「公平なルールを明確にしただけだ」と説明するだろう。確かに、個々の説明には一定の合理性がある。しかし、対外国人政策は、一つひとつの制度ではなく、それらが全体として発する「メッセージ」によって評価される。
外国人から見れば、「また規制が増えた」「また条件が厳しくなった」という印象が積み重なり、やがて「日本は自分たちを歓迎していないのではないか」という感覚が生まれる。そこに行政の意図があるかどうかは、それほど重要ではない。重要なのは、受け手がどう感じるかである。
現在、日本は人口減少と深刻な人手不足に直面している。その一方で、技能実習制度に代わる育成就労制度の創設1、特定技能の受け入れ拡大2、高度外国人材の優遇3など、外国人を必要とする政策も進めている。つまり、日本は外国人に対して、「来てほしい」と言いながら、同時に「しかし、あまり信用はしていない」という矛盾したメッセージを送っているように見える。
しかも、日本に残されている時間は、決して長くない。現在はまだ、日本の治安、社会インフラ、教育、医療、文化、企業の技術力などに魅力を感じ、日本で働きたいと考える外国人がいる。しかし、日本の国力が次第に低下し、経済成長が停滞し、円安がさらに進めば、日本で働いて得られる賃金の国際的な価値は下がっていく。外国人労働者が自国へ送金できる金額も減り、優秀な技術者や研究者にとって、日本を選ぶ経済的な理由は弱くなる。そのとき彼らは、より高い賃金と将来性を持つアメリカ、欧州、カナダ、オーストラリア、あるいは成長を続けるアジア諸国を選ぶだろう。「必要になったら外国人を呼べばよい」という考えは、あまりにも楽観的である。人材は、商品棚に並んでいて、必要なときに注文すれば届くものではない。優秀な人ほど多くの選択肢を持ち、自分と家族を尊重し、将来を託せる国を選ぶ。
外国人を必要としている今の段階で、排除を感じさせる政策を積み重ねれば、日本の評判は国外に広がる。一度形成された「日本は外国人に冷たい」「制度が不安定で、長く暮らしにくい」という評価は、後になって政府が方針を変えても簡単には消えない。そして、本当に外国人の力が必要になったときには、もはや日本が選ぶ側ではなく、外国人から選ばれる側になっている。その現実を、政府は直視しなければならない。
もちろん、ルールは必要である。不法滞在や制度の不正利用を防ぐことは、国家として当然の責務である。しかし、違反者への適切な対応と、外国人全体を疑いの目で見る制度設計とは区別しなければならない。もし各省庁が、それぞれの立場だけから規制を積み重ね続ければ、政府全体としては意図しなくても、「外国人は歓迎されない国」というメッセージを世界に発信することになる。
その結果、日本が失うものは労働力だけではない。若い世代、研究者、技術者、起業家、留学生、そして日本と世界を結ぶ人々そのものを失うのである。それは、国力の低下をさらに加速させ、円安と経済停滞を深め、ますます外国人に選ばれなくなるという悪循環を生む。政府は、個々の制度の正当性だけではなく、それらを積み重ねた結果、国としてどのような表情を世界に見せているのかを点検すべきである。
「ルールを守ってほしい」というメッセージと、「あなたを歓迎している」というメッセージは両立できる。しかし、その努力を先送りできる時間は少ない。外国人から選ばれなくなってから扉を開いても、そこに入ってきてくれる人がいるとは限らない。
- 出入国在留管理庁「育成就労制度の制度概要・関係法令」https://www.moj.go.jp/isa/03_00163.html ↩︎
- 出入国在留管理庁「特定技能の受入れ見込数の再設定及び対象分野等の追加について(令和6年3月29日閣議決定)」https://www.moj.go.jp/isa/applications/ssw/2024.03.29.kakugikettei.html ↩︎
- 出入国在留管理庁「高度人材ポイント制とは?」https://www.moj.go.jp/isa/applications/resources/newimmiact_3_system_index.html ↩︎

橋本俊明
「brIDge」主筆/公益財団法人橋本財団 理事長
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。



























