昨今、移民が増加することに対する不安の声が広がっている。SNSやメディアでその不安と重なるようなケースがクローズアップされたり、あるいはそうした情報を政治家やインフルエンサーが拡散することもあり、ますます不安が高まっている面もある。
そのような不安の一つに「移民が増加すると日本の文化が脅かされる」というものがある1。ここでは、そのような不安について、少し考えてみよう。
まず文化は、移民がいるかどうかにかかわらず変化する。例えば、自分の子ども時代を振り返って、現代と大きく異なる慣習があったことはすぐ思いつくだろう。ただそうは言っても、移民が増加することで、文化がネガティブな影響――何がネガティブかは人によって異なるのだが――を受けるという不安は払拭されないかもしれない。だが、その不安は、移民と文化の関係を一面的に捉えているのではないだろうか。というのも移民が文化に与える影響は様々に考えられるからだ。
第一に、移民が増加することによって、文化が刷新されたり、ポジティブな新しい文化が生まれる可能性もある。典型的には、ラーメンを考えてみよう。ラーメンは、元々は明治時代に日本にやってきた中国人が食べていた麺料理が発端となっていると言われている。それが日本の中でローカライズされ、第2次世界大戦後には「国民食」と呼ばれるようになった。また、インスタントラーメンやカップラーメンも発明され(これらを発明した安藤百福も台湾出身の方である)、それらが世界に輸出されるようになった2。つまり今や、グローバルな人気を誇り、日本食の代表とされるラーメンも、移民がいなければ生まれなかったといえる。ここでは、移民は日本文化を脅かす存在というより、日本文化の創造者なのである。そしてラーメンに限らず、移民や海外から来た人がもたらしたものがローカライズされ、「日本文化」となっていることは珍しくない。
第二に、移民が増加するのではなく、むしろいなくなることで、文化がネガティブな影響を受けるという可能性もある。例えば、日本社会に暮らす多くの人々にとって、コンビニエンスストア(以下、コンビニ)は不可欠の場所となっている。文化が社会において共有される生活の様式や内容を意味するならば、コンビニエンスストアは、日本文化を支えるインフラとも、文化そのものともいえるだろう。高齢化する社会の中で、一人暮らしの人々の食を支え、配達物を預かり、地域の見守りの場所としての役割をも果たすコンビニも珍しくない。だが、コンビニは移民なしでは成り立たない。コンビニの店員に移民が多いことは肌感覚として知っている方も多いはずだ。また、コンビニのお弁当や惣菜を作る食料品製造業も、外国人労働者の割合が高い業界として知られている3。それゆえ、かれらがいなくなると、こうしたコンビニ文化は廃れてしまうだろう。
このように、移民と文化の関係はさまざまである。移民の増加によって、文化がネガティブな影響を受ける可能性はない訳ではないが、一面的といえる。歴史を振り返れば、これまでも日本では、海外からもたらされてきた文化を受け入れ、ローカライズしてきた。一方、高齢化と人口減少という現実を踏まえれば、移民の不在によって、文化がネガティブな影響を受ける可能性の方が心配に値するかもしれない。
- 他にも「移民が増加すると治安が悪化するのでは」という不安も根強いが、日本のデータからはそのような現実は生じていないことが示されている。
e.g.公益財団法人日立財団・グローバルソサエティレビュー・連載
統計から読み解く移民社会④是川夕「外国人が増加すると治安が悪化するのか? 犯罪統計による検証」(2025年6月) https://www.hitachi-zaidan.org/global-society-review/vol4/commentary/index.html ↩︎ - 明石書店「ラーメンの歴史学 ホットな国民食からクールな世界食へ」バラク・クシュナー 著、幾島幸子 訳(2018年06月11日)https://www.akashi.co.jp/book/b370845.html
国書刊行会「ラーメンの語られざる歴史」ジョージ・ソルト 著、野下祥子 訳(2015年09月24日)https://www.kokusho.co.jp/np/isbn/9784336059406/?srsltid=AfmBOoompuxk8–JHOB1hvMW6zUWm3VYK8s6Y9_rGDsU7sg1PAAZkgJC ↩︎ - 内閣府「令和6年度(2024年度)年次経済財政報告」第2-3-4図「産業別外国人労働者割合」(2024年8月)https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je24/h06_hz020304.html ↩︎
髙谷 幸(たかや・さち)
東京大学大学院准教授
専門は社会学・移民研究。日本における外国人や非正規移民、移民女性、移民政策などを研究し、社会の境界線による排除や周縁化、人々の連帯のあり方を幅広く論じる。著書に『追放と抵抗のポリティクス』(ナカニシヤ出版)など。
























