データで検証「外国人が増えると、日本人の給料は下がる」のは本当か

労働力不足が叫ばれる中、海外から働き手を受け入れる議論が進んでいる。一方で、生活者の胸の内には不安がある。「安い賃金で働く外国人が増えれば、日本人の仕事が奪われ、給料も下がってしまうのではないか」という不安である。自分たちの生活を守りたいと願うのは、人間として当然の防衛本能である。感情論として片付けるべきではない。

しかし、世界の経済学者たちが集めた膨大なデータは、少し異なる現実を示している。フランス国際経済展望研究センターが発表した「移民がネイティブの賃金に与える影響:メタ分析」(2025年)という研究がある。88の学術論文を集計した分析結果によれば、外国人が増えることで受け入れ国の国民の給料に与える影響は、「ほぼ0」だという結論が出ている。

なぜ、給料は下がらないのだろうか。理由は、働く人たちの「得意なこと」が違うからである。高度な専門知識を持つ外国人が来れば、新しい技術が生まれ、企業全体の利益が増える。結果として、周囲の日本人の給料も上がる効果が生まれる。また、建設現場や介護の現場など、日本人がなかなか集まらない仕事に外国人が就く場合もある。異なる役割を分担することで、社会全体としては経済がうまく回り始める。

ただし、全体を平均すれば影響は0でも、細かく見ると痛みを伴う場所もある。日本人と外国人が「まったく同じ仕事」で競争する場合である。特別な資格を持たず、単純な作業を担う働き手同士では、仕事の奪い合いが起きる。企業は安い賃金で働いてくれる人を選ぶため、結果として同じ仕事をしている日本人の給料が押し下げられる現象は確かに起こる。

より厳しい現実もある。新しく外国人がやってきたとき、最も給料が下がる被害を受けるのは、実は日本人ではない。数年前に同じ国からやってきて、すでに働いている別の外国人である。似たような能力を持つ働き手同士で一番激しい競争が起きるからだ。

不安を解消するためには、「外国人が増えるか減るか」という単純な問いから抜け出す必要がある。不足している仕事は何か、競争が起きる仕事は何かを見極めることが重要だ。

日本人と外国人が違う役割を担い、お互いの足りない部分を補い合えるような仕組みを作ること。そして、同じ仕事で不利になる人が出た場合には、新しい技術を学ぶための支援を手厚く行うこと。人口減少という現実を前に、単純な拒絶を続ける余裕はない。

感情的な対立を乗り越え、データに基づいた落ち着いた議論を始める時期がすでに来ている。日本の労働市場全体を強くするための冷静な判断が求められている。

小倉 健一

ITOMOS研究所 所長

1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。
国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任。
2021年7月ITOMOS研究所設立、同所長。