外国人と共生する話は、テレビでは国の政策として語られる。しかし実際の現場では、すべての問題が一つの場所に降りてくる。市役所、区役所、町役場である。地域の自治体である。
ゴミ出しの曜日を覚えてもらえない。夜中の大声。アパートの集会所の使い方。子どもの就学手続き。日本語が分からない住民への災害情報の伝え方。一つひとつは小さな話に見えるが、日々起こる「困った」を解きほぐすのは、霞が関の役人ではなく、地元の窓口に立つ職員である。
外国人受け入れの拡大は中央政府の判断で決まる一方、現場対応のコストは自治体に丸ごと降りかかる構造になっている。職員は、共生を進める立場でありながら、町内会や市議会からは「公園が騒がしくなった」「保育園の通訳に税金を使うのか」という強い声を浴びる。両側の真ん中に立って、毎日の判断を重ねている。
苦悩は数字にも表れている。厚生労働省「外国人の国民健康保険加入・納付状況調査」(2024年)によれば、世帯主が外国人の場合の国民健康保険の納付率は63%にとどまり、全体平均の93%を大きく下回る。1書類の言葉が伝わらない、制度の意味が届いていない、転居や帰国の管理が追いつかない。現場の事務処理の難しさが、ほぼ直接に社会保障の穴へとつながっている。
ここで失敗が積み重なれば、全国の流れは一気に変わる。特定の自治体で起きた一件の事件、一つの苦情が大きく報じられれば、世論は「外国人は受け入れない」へと振れる。地方の窓口の負担は、実は国全体の方向を左右する重荷なのである。
ならば、必要な支援は明確である。多言語の通訳と翻訳、行政手続きの簡素化、住宅の入居案内における国籍の偏りを防ぐ運用、地域ルールを学ぶ講習の制度化、警察と消防との連携、税と保険の徴収を担う一括窓口。お金と権限、両方を地方に渡さなければ、現場は崩れる。加えて、自治体同士が成功例と失敗例を持ち寄れる場を、国がきちんと整えなければならない。一つの市役所の試みを、全国が早く学べる仕組みをつくる。同じ失敗を別の町で繰り返すには、もう時間が足りない。
最前線で踏ん張る職員を見捨てれば、国全体の受け入れ政策は破綻する。逆に言えば、地方の窓口を強くすることが、最も保守的に映る選択肢なのである。住民の不安に応え、ルールを守らせ、暮らしの秩序を保つ。守る側を国がきちんと支える。連載の最後に強調したいのは、外国人政策の成否を決めるのは、官邸の演説ではなく、月曜の朝に窓口を開ける職員の手元にある、という事実である。
- 厚生労働省「在留外国人の医療保険適用の課題と対応」https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001616165.pdf ↩︎
小倉 健一
ITOMOS研究所 所長
1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。
国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任。
2021年7月ITOMOS研究所設立、同所長。
※本コラムは著者個人の見解です。
























