日本はなぜ元気を失ったのか

人口減少と「アニマルスピリッツ」、そして移民という選択

1990年代初頭のバブル崩壊から30年以上、日本経済は長い停滞の中にある。世界経済が拡大するなかで、日本の成長率は相対的に低迷し、賃金も伸び悩んできた。その背景には、単なる景気循環では説明できない、より深い構造的問題がある。

第一は、人口減少である。日本の人口は2008年をピークに減少局面に入り、現在では65歳以上が総人口の約3割を占める超高齢社会となった。1若い世代が減れば、労働力が減るだけではない。消費の担い手も減り、新しい挑戦を試みる人も減る。市場が縮小するとの予想は、企業の投資意欲を弱める。将来が広がっていくという感覚が薄れると、社会全体の活気は失われていく。

第二は、心理的要因である。経済学者のケインズは、人々が将来への期待をもとに行動する力を「アニマルスピリッツ」と呼んだ。楽観的な期待や挑戦への意欲が、投資や起業、消費を後押しする。しかし日本では、バブル崩壊以降、「失敗してはならない」という空気が強まり、企業も個人もリスクを避ける傾向を強めた。企業は内部留保を積み上げ、家計は貯蓄を優先する。その結果、経済はさらに動かなくなる。人口減少と慎重心理が重なり、活力の低下が固定化しているのである。

では、人口減少とアニマルスピリッツの低下を克服して、日本はどうすれば再び前向きなエネルギーを取り戻せるのか。

一つの鍵は、社会の「開放性」を高めることである。その具体策として、移民受け入れを本格的に議論する必要がある。移民は単なる労働力の補充ではない。若い世代が増えれば、消費も投資も増える。市場の将来規模が維持されるという期待は、企業の長期投資を促す。また、異なる文化や価値観を持つ人々が交わることで、新しい発想や事業が生まれやすくなる。多様性はイノベーションの源泉である。

実際、移民国家である米国やカナダでは、移民が起業や技術革新の担い手となってきた。2もちろん、単純な比較はできない。しかし、「外からの人材が社会に刺激を与える」という構造は、どの国でも共通している。

もっとも、移民受け入れは数だけの問題ではない。言葉の壁や雇用の不安定さによって移民が「周縁化」されれば、社会の分断を生みかねない。大切なのは「統合」である。日本語教育の充実、資格取得の支援、安定した就労機会の確保、地域との交流促進など、受け入れと同時に共生の仕組みを整える必要がある。移民が「一時的な労働力」ではなく、地域社会の一員として根付くことが、活力を生む条件である。

同時に、国内改革も欠かせない。女性や高齢者がより活躍できる環境づくり、失敗しても再挑戦できる制度の整備、創造性を育てる教育改革――これらはすべて、アニマルスピリッツを回復させる政策である。社会が「挑戦を歓迎する」雰囲気を取り戻せるかどうかが鍵となる。

日本は、閉じて縮む道を選ぶのか。それとも、開いて広がる道を選ぶのか。
人口減少はすぐには止められない。しかし、未来への期待を回復させることはできる。移民受け入れは、そのための重要な一歩である。日本という国土に住む人々のために、そして世界に貢献する国であり続けるために。多様な人々が共に生き、挑戦できる社会を築くことこそ、日本再生への道ではないだろうか。

  1. 【総務省統計局】
    人口推計(2024年(令和6年)10月1日現在)‐全国:年齢(各歳)、男女別人口 ・ 都道府県:年齢(5歳階級)、男女別人口
    2025年4月14日公表
    https://www.stat.go.jp/data/jinsui/2024np/index.html ↩︎
  2. 【米国国勢調査局 (U.S. Census Bureau)】 
    「Are Immigrants More Innovative? Evidence from Entrepreneurs」 2025年3月23日初版公表
    https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/jems.12633 ↩︎

橋本俊明

「brIDge」主筆/公益財団法人橋本財団 理事長

1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。