「岡山における多文化共生を考える」シンポジウムより
2026年8月23日(日)開催
2026年8月23日(日)、岡山国際交流センター(岡山市)で、「岡山における多文化共生を考える」と題したシンポジウムが開かれた。主催は吉備学会1と公益財団法人 橋本財団。副題は「岡山に外国人材は必要か ―― 多様性ある未来への対話」。市内で「うらじゃ祭り」が重なる猛暑の日曜日にもかかわらず、会場はこのテーマに関心を寄せる市民で埋まった。
来賓として、小野田紀美大臣(経済安全保障担当、外国人との秩序ある共生社会推進担当)と、逢沢一郎衆議院議員が挨拶に立ち、賛否が鋭く分かれるこのテーマの難しさを、それぞれの立場から率直に語った。シンポジウムは二部構成。第1部は「地方都市と外国人材 ―― 人口減少時代の選択」と題した基調対談、第2部は、受け入れ企業・当事者・日本語教育・高校生など多様な立場によるパネルディスカッションが行われた。
brIDge編集部は、この日の議論のなかから、とりわけ第1部の基調対談を「そのままの形」で記録に残したいと考えた。登壇したのは、四半世紀にわたり外国人集住のまちづくりに取り組んできた総社市の片岡聡一市長2と、人口・移民政策を長く研究してきた毛受敏浩・関西国際大学客員教授3。データが示す「不可避の現実」と、現場が積み重ねてきた「共生の実体験」とが交差する、示唆に富む対話だった。以下、発言はできるだけ変えず、読みやすさのための最小限の整えのみを施して採録する。
※本採録は当日の自動文字起こしを底本に、発言を変えずに「読める化」したものです。
基調対談「地方都市と外国人材 ―― 人口減少時代の選択」(採録)
登壇者自己紹介
司会 今日は様々な声があるテーマですので、結論を押し付けるよりは、皆さんと一緒に考え、それぞれが判断軸を得るための材料になる時間にできればと思います。基調対談として「地方都市と外国人材」をテーマに、片岡聡一・総社市長と、毛受敏浩 教授にお話しいただきます。
片岡聡一・総社市長 こんにちは。総社市長の片岡聡一と申します。今日はお客様が少ないんだと思っていたら、こんなにいっぱい来ていただいて、会場に入るときに本当に良かったなと思いました。来てくれてありがとうございます。まず、僕がなぜここにいるかについてですが――私は市長として5期目です。もともと市長になった2007〜2008年(平成19〜20年)あたり、リーマンショックの前ですが、総社市というのは三菱自動車の部品工場がたくさんある地域で、ブラジル人の三世・四世の方がとても多くいらっしゃった。日本でも珍しいくらいブラジル人の多い地域で、「外国人集住都市会議4」の一員でした。中心人物は当時の浜松市長・鈴木康友さん(現・静岡県知事)5。ほかに群馬県の大泉町、太田市、三重県の鈴鹿市など、全国で14ほどの、ブラジル人との共生に取り組む自治体の連合体で、総社市もその一員でした。当時のブラジル人対策は、まさに先ほど小野田さんが言われたのと同じで、日本人も不信感を持ち、ブラジル人も不信感を持っている時代だった。それを乗り越えて共生社会をつくってきた。今はそれがベトナム人、インドネシア人に変わっている。ブラジル人との信頼関係を勝ち得たそのミッションを、もう一度アジアに対して行っていく。そういうことを実体験として乗り越えてきましたので、今日はその気持ちでやりたいと思います。よろしくお願いします。
毛受敏浩 関西国際大学 客員教授 ご紹介いただきました、関西国際大学 客員教授の毛受敏浩と申します。ちょっと変わった名前で、「毛受」と書いて「めんじゅ」と読みます。今NHKの大河で豊臣兄弟をやっていますが、まもなく賤ヶ岳の合戦が出てきます。そこで豊臣方として、毛受勝照という武将が活躍するんですね。ある国会議員の先生と名刺交換したら「これは戦国武将の名前じゃないか」と言われ、さすが日本の歴史に詳しいと思ったら「戦国ゲームに出てくる名前だよ」と言われてがっかりしました。
今日の話は、まさに近未来、実際にはもう起こりつつある話です。15分という限られた時間でお話しし、あとは片岡市長と中身のあるディスカッションをしたいと思います。よろしくお願いします。
毛受教授 プレゼンテーション「外国人材の実態」
毛受教授 では早速。今日いらっしゃる方は外国人について詳しい方が多いと思いますので簡単に。いま在留外国人がこれだけ増えてきている。コロナ禍の時期を除けば右肩上がりで、直近(2025年)で413万人まで増えました。人口の3.4%が既に外国人です6。これは「外国人依存度」というもので、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの加藤 真さんという方が言い始めた言葉です7。各産業分野で、何人中何人が外国人かを示しています。2015年から2024年の10年間で、農業・林業では70人に1人だったのが27人に1人に、漁業では99人に1人が18人に1人に、建設業では171人に1人から23人に1人になった(図1)。あらゆる産業で外国人労働者が増えています。

【図1:毛受教授使用資料「三菱UFJリサーチ&コンサルティング 加藤真氏 作成(労働力調査/外国人雇用状況=厚労省 より作成)」】
なぜこれほど増えたか。政府が外国人労働者をたくさん受け入れる政策をとっているというより、それだけ日本の若者が減っているということなんです。出生率は非常に低い水準で、若者が増えることは残念ながらない。この先10年を考えると、外国人への依存度はもっと高まるでしょう。一方で「外国人がいなくても大丈夫だ、女性活躍・高齢者の活躍やAI・ロボットの発展で補える」という方もいらっしゃいます。これは日本人と外国人の年ごとの増減を見たものです。青が日本人で、残念ながらずっと減ってきていて、2024年は1年間に日本人が94万人減った。近い将来、年100万人減も想定されます。外国人はずっと増えていて、日本人の減少の約4割を補う形で増えています。つまり残りは女性・高齢者の活躍で補うにしても、100%は補いきれない、ということをこの図は示しています。
国はどう見ているか。2023年に社人研(国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」が、2070年には外国人が人口の10.8%になるという想定を出しています8。その想定は、外国人の増加を年16万4千人としている。これは推計を出した過去5年間(コロナ禍を含む)の平均が16万4千人だったからです。日本人の減少が進むにつれて外国人が増える。既に2024年末で413万人・人口の3.4%。仮に今後、毎年少なく見積もって30万人ほど純増するとすると、20年で600万人増、既に413万人いますから、20年後にはおよそ1,000万人になるとも考えられます。なぜそこまで増えるかといえば、それだけ日本人が減るからです。「減っても大丈夫」という意見もありますが、日本の一次産業などは高齢化が高いまま減っていく。社会の持続可能性という点で本当に立ち行かなくなる。私は「外国人推進派」と見られることもありますが、逆に言えば、社会を維持する企業や地域の立場からすると、外国人に入ってもらわないと社会を維持できないのが現実で、であればしっかり受け入れを調整していかなければならない、ということです。
雇用について。外国人の平均賃金は約24万1千円、一般労働者が約33万円ですから、外国人労働者は日本人の平均の7割程度しかないのが実態です9(図2)。派遣労働の割合を見ると、外国人は16.7%が派遣労働、ブラジル人に至っては50%。一世だけでなく、日本で生まれたブラジル人の子どもたちもそのまま派遣労働になっているのが実態で、外国人が日本で安定的な経済状況になりにくいことを表しています。

【図2:毛受教授使用資料「令和6年 賃金構造基本統計調査/令和7年 外国人雇用状況届出より作成」】
教育に関わる方はご存じでしょうが、外国籍の児童生徒は約15万人、そのうち半分の7万人ほどが日本語指導を必要としています10。全国の公立校でも4割の学校に外国籍の子どもがいる。問題は不就学率が非常に高いこと。そして高校卒業後の非正規就職率が49.6%。半分ほどの子どもが正規就職をしていない。それだけ日本語能力等で差があるということです。このまま放っておくと大変なことになると思っています。

【図3:毛受教授使用資料「文部科学省「令和7年度日本語指導が必要な生徒児童の受入状況等に歓っする調査結果」」】
一方で、人口減少の中で「外国人が必要だ」という意見も増えています。産経新聞が今年元日の特集で全国の市区町村長に調査したところ、「地域を存続させる上で外国人は欠かせない」と答えた首長が54%、「いいえ」は2%しかなかった11。国の政策がどうあれ、地域社会では外国人がいないともう社会が回らないと考えられている。群馬県は多文化共生の推進条例をつくり12、高知県は「外国人材から選ばれる高知県」を目指すといった政策を出しています13。先週、高知県庁に行きましたが、多文化共生推進プランを改定し、技能実習・特定技能の外国人を今後4年間で30%増やすという数値目標まで作っている14。それだけ人材不足が深刻なんです。
私自身、新宿区の「多文化共生まちづくり会議」の初代の会長、現在は副会長を務めていますが15、新宿区の人口構成を見ると、全国平均だと70歳前後が一番多いのに、新宿区は20代が一番多い16。人口35万人のうち外国人が5万人(14%)17、20歳人口で見ると直近では約49%が外国人です。一般の印象では「外国人が多いと大変なことになっているのでは」と思われるかもしれませんが、区が日本人・外国人に行ったアンケートで、「近所に外国人が住むことが好ましいか」という質問に対し、日本人住民の「好ましい・どちらかといえば好ましい」が38.9%、「好ましくない・どちらかといえば好ましくない」が10.8%。好ましいが好ましくないの約4倍だったんです18。なぜこういう結果になったか。実は新宿には日本語学校が50校以上あり、専門学校や大学も多い。若い人が多く、みんな日本語を勉強している方々なので、問題なく生活できる。新大久保などは外国人が非常に多いのに活気があり、日本の若い人たちも集まってくる。新宿の住民は、外国人が新宿の発展を担う大きな一つだと認識している。それによって犯罪が増えているわけでもない。つまり、外国人が必ずしも治安の悪化につながるわけではないんです。今後どんな政策が必要か。これは宮城県大崎市が、廃校になった中学校を使って「大崎市立おおさき日本語学校」を作った例です19。海外から日本語を学びに来た方々がいらっしゃる。人口が減る中で、日本語ができて日本社会になじめる方はすごく重要で、その方々と一緒に日本の新しい社会をつくっていくことが必要だと私は考えています。
司会 ありがとうございました。新宿のお話はだいぶ衝撃的でした。成人式にも外国人の方が非常に多く出られたと報道で聞きましたが、それは働きに来ている方が多いのか、二世・三世が多いのでしょうか。
毛受教授 両方多いのですが、学校が多いので留学生が多いんですね。技能実習生は実は新宿にはいない。高度人材の方、介護などで働く方もいますが、留学生の方が多い。134カ国から来ています20。
司会 134カ国。言語の幅もかなり広くなりますね。どういう理由で来られたのかも気になるところですが、まずは総社市長のお話を伺って、もう少し深めていければと思います。
改めて総社市長、お願いいたします。
片岡市長 プレゼンテーション「総社市の取り組み」
片岡市長 よろしくお願いします。まず、国がやることは入管法、就労における日本語要件など。市役所・市町村役場は、国が許した制度で入ってくる外国人の生活、生きていくこと、共生社会そのものを全部やっているんです。しかも自分(市)でお金を出してやっている。だから理解を得られない市はやらない、ということになる。国は罰則や法律だと言いますが、我々の市は「仲良くしよう」という観点でやっているのが幸せなんです。

【図4:片岡市長使用資料(1)】
これまでブラジル人社会と一緒に苦労してきました。青いところがブラジル人で、1990年代の初め頃、総社にはもう800人ほどのブラジル人がいた。ブラジルとアルゼンチンがワールドカップで対戦した日など、駅前でどんちゃん騒ぎで、みんな「ブラジル人が怖い」と言った。どこに住んでいるか分からない、国籍も市民権もない。子どもも義務教育の学校に来たり来なかったり、法律がないから。ポルトガル語も日本語も話せない、そういう状態を日本人が彼らに強いたわけです。税金も入ってこず、勝手に転居する、やりたい放題の1990年代でした。そこで我々がやったのは、ブラジル人に歩み寄ろうということで、ブラジル人のための日本語学校をつくって「仲良くしよう」と。それでも最初は、大柄なブラジル人がリオのカーニバルのようなことをやるので、みんなドン引き、怖がった。だけど「仲良くしよう」を多文化共生の軸として歩んできました。
平成18〜20年頃がブラジル人のピークでしたが、リーマンショックで部品工場群は倒産寸前、有効求人倍率0.29と総社は日本で最悪でした。そのとき――僕が市長になった頃です――国の政策は帰国支援的なもので、ブラジル人に50万円を渡し、片道切符で再入国は認めない、というものだった。それで「さよなら、グッバイ」とやってしまった。人権がなく、こんなにかわいそうなことをやった。言葉も話せない子どもも生んでしまった。そうしてブラジル人が帰り、代わってベトナム人などアジア系が入ってきたのが今です。

【図5:片岡市長使用資料(2)】
国が決めたルールに従い、皆さんの身の回りに外国人がたくさん住んでいます。総社では、在留する外国人が2,256人、うち労働者が1,591人、特定技能42%・技能実習40%。僕は特定技能の制度は数が伸びず、国に「あなたたちの政策は失敗した」とよく言っていましたが、よくここまで持ち直したな、というのが偽らざる心境です。集住先は、自動車部品のサプライヤーや、山崎製パン岡山工場、大黒天物産といったところに、今アジア系の技能実習・特定技能の方が多くいらっしゃる。
僕が一番大事にしてきたのは、外国人の方々の病気です。自分がハノイで一人で働いていると想像してみてください。周りはベトナム人だらけ。そこで病気になったら困るでしょう。1990年代には、悪質な仲介のブラジル人がいて、「通訳して病院に連れて行くから」と言って、病院に連れて行くのに2万円出せ、といったことが総社で普通に行われていた。だから市役所の職員が、外国人が病気になったら必ず付き添って病院にお連れすることをやってきました。特に気をつけていたのはメンタル疾患です。10年ほど前、ベトナム人の女性が孤独の中で自殺しました。相談できる相手もなく、病院にもかかれなかったのだと思います。市で葬式を挙げましたが、彼女の遺品は食品工場の制服一枚だけ。持ち物はなかった。そういう中で亡くなった外国人もいます。医療相談は年間290件、特にメンタルの相談を心がけて対応しています。
ブラジルの方への日本語教育も行いました。あまりに劣悪な教育環境で、日本語もポルトガル語も話せない子を生んではいけない、と平成22年から愚直に、毎年30回続けています。総社市はこれに年間約120万円を出しています。「みんなの税金を外国人の日本語教育に使っていいか」と問えば、ノーという人も結構いると思う。でも、それでもやり続けてきました。今日は総社市の職員2人も来ていて、人権・まちづくり課の多文化共生推進員のタンさんがリーダーでやってくれています。

【図6:片岡市長使用資料(3)】
うちがやっているのは、いわば「共生の係」をつくることです。市役所で外国人の身の回りのことを全部引き受ける4人体制。人口7万で4人は結構なことですが、来る相談は離婚、出生、年金、本国の運転免許証といった、命や生活に関わることが多すぎる。本来、ベトナムの方はベトナムの領事館に行きなさい、というのが国際ルールです。大臣も声高に言う国際ルールはそこにある。だけど実際は、離婚や出生で困ったら市役所に来る。しかも受け入れ体制がちゃんとしている市役所に来る。ベトナムの領事館は日本に2つ――大阪・堺と福岡市にしかない。すると中四国一円から総社市役所に来ることになり、それをワンストップで引き受けてきたのが総社です。昨年の外国人相談は8,272件。1日平均35件。すごい数です。ちなみに離婚はベトナム語で何と言うか――「リコン」と言うんです。そういう相談まで一手にやっている市役所だ、ということです。
命に関わるときにその国がどう扱うか。熊本地震のとき、外国人をどう受け入れるかが問われた。災害時、外国人は制度上、日本では「要支援者」――要介護1〜5や障害者と同じ扱いなんです。でも「それはダメだ、共存共栄なら、外国人が助ける側に回ろう」と立ち上がって、外国人の防災リーダーをつくり、外国人が市民を助けることをやっています。
先ほどリオのカーニバルにドン引きしたと言いましたが、この赤いシャツはフィリピンの方でしょう、年に一度こうしたフェスティバルを、2,000人が来て、踊り、歌っています21。
これから先、僕らの手違いで彼らに迷惑をかけたくない。日本に来て住んでいる人、子どもたちを無視しますか。やっぱり教えてあげて、一人の人として人格・人権をつくってあげることが大事だと思っています。
移民・難民・外国人労働者の区別が、日本人は全然ついていません。市民は外国人を見れば「難民」と言いますが、難民ではありません。難民として受け入れているのは、たとえばウクライナからの3人。難民は全国で190ほどで22、そのうち4人を総社が迎え入れ、ウクライナ人と暮らしている、ということです23。
育成就労になったときのポイント、病院のこと、学校のこと、最後に総量規制――これらは、この後のディスカッションで毛受先生とお話ししたいと思います。冒頭の説明は以上です。ありがとうございました。
司会 災害支援のお話がありました。今回の熊本地震でも、若いベトナムの方々が女性を助けたりといったことがあったと聞きます24。助けられる側ではなく助ける側として一緒にやっていくことが増えていると思いますが、そのあたり、もう少しお考えを伺えますか。
片岡市長 8年前の西日本豪雨のとき、日本全国の在日ブラジル人の3世・4世の方が総社に来てくれて、「今までブラジル人が総社にお世話になったので恩返ししたい」と、100万円ほどの募金をくださったことがありました。なぜかというとブラジルのリオデジャネイロで大水害があり、在ブラジルのカストロネベス大使のお宅が水浸しになり壊れたという情報があった。それで「市役所として支援に行け」と言って、タンさんがリオに支援に行ったんです。その恩返しだと、ブラジル人社会の方が義援金を持ってきてくれた。もう一つは、インドネシアの学校の先生連合(ALTの先生方)がインドネシアの義援金を持ってきてくれた。これは、総社市役所がフィリピン・セブ島の被災時に、職員をセブ島へ助けに行かせたからです。フィリピン人の先生たちが頑張ってくれているから恩返しに行こうと。そのお返しに来てくれた。こうして、外国人の方とのつながりは、心を込めて積み重ねれば重なり合っていける。おかげで総社市は、市長の決定でどこでも支援に行ける、日本で一つしかない条例を持っていて、年間1,000万円の予算を議会で可決しています。ただ、リオに行った後あたりから議会が「支援は国内に限る」ということになりましたが。
司会 一緒に支援することが国際的なつながりになり、輪が広がっていくのだと感じました。
外国人材の地域間獲得競争が起きるのか
司会 さて、日本で人が減っていく中で、外国人材自体も奪い合いになるのではないか、自治体間競争になるのではないか、という論点があります。市長は「自治体間の奪い合いは絶対にしない」と書いておられますが、毛受教授はこのあたりをどうお考えでしょうか。
毛受教授 まず国際的に見ると、今は円安ということもあり、外国人材の送り出しに関わる方お二人から別々に聞いたのですが、「日本に行く意欲・熱意が下がってきている」という話でした。かつてほど日本に行っても稼げない、と。本来我々に必要なのは、質のいい人材に来ていただいて、腰掛けではなく、その企業や地域でずっと働いて活躍してもらうこと。ただ、誰でも待遇のいいところ、給料の高い国に行きたい。送り出し国の人からすると、どの国に行くか――給料が高い、比較的簡単に行ける、といった条件で選ぶ。日本は給料が他国と比べて見劣りしてきている。加えて、日本語要件で「行く前にこれだけ長く日本語を勉強しないといけないのか」、行った後も永住の要件がさらに長くなる。こう考えると、日本の魅力は実は下がってきている可能性がある。国際的な労働市場で日本が今どの位置にあり、どうアピールするかを本来考えるべきですが、今は国内事情を優先している気がします。
一方、国内の話でいうと、育成就労になると人が移動できる。日本人は自由に移動できるわけですから当然です。技能実習制度は33年間続きましたが、「研修」という名目で来ながら実際は労働者として使い、その地域・企業に縛り付ける制度自体がおかしかった。労働者なら移動できて当たり前。そのうえで「この企業に定着したい、この地域にいたい」とどう思わせるか、という競争が働くのが本来の姿で、それを制度的に止めていたこと自体がおかしかった。外国人労働者は「そういうふうに使える人たち」だという見方が固定してしまい、それが人権の軽視につながった。だから、外国人も日本人も、魅力のある職場・地域とは何かを考えていく必要があります。
司会 技能実習の時代が長く続いたので、それが当たり前化してしまったのだと感じました。改めて片岡市長、このあたりのお考えを教えていただけますか。
片岡市長 今、日本はうろたえていると言わざるを得ません。何にうろたえているか。増田レポート(増田寛也氏「消滅可能性都市」推計〕で「あなたの市は2050年に消滅する」などと勝手に推計を出された25。余計なお世話です。だけど、それで人口が減っている市の市長は選挙で落選する。だから都市間で子どもの奪い合いが起きる。「うちは保育料タダ」「第2子からタダ」「医療費は20歳まで無料」と、無料の奪い合いをしている。これが今の日本人の実態じゃないですか。本来は政府が「日本の人口は1億2,000万人ではありません、1億1,500万人で一般会計当初予算の組み替えをしませんか」という議論ならわかるけれど、「減らしたくない」となる。その奪い合いを、外国人の育成就労で来年4月からやるべきではない。「アパート代タダ」「通勤バスを出す」とやり出したら、人権どころの話ではなくなる。小野田大臣は「給与が高く生活環境の良い東京に集中するだろう、だから選ばれない市は自分たちで魅力をつくれ」と言われた。少し厳しいなとは思うけれど、そうした中でも、迎え入れる日本人がしっかりとしたアイデンティティを持ち、外国人を人格・人権あるものとして迎え入れる、そういうことは我々がやっていかなければいけないと思っています。
司会 日本自体がどう維持していくのか、大きな国家戦略に関わるところだと感じました。
教育について
司会 少し各論に入ります。教育について。育成就労から特定技能1号を経て2号になるとご家族を連れてこれるようになります。お子さんが一緒に来たり、こちらで生まれたりする。学校現場での受け入れや教育をどうするか、各政党の提言でもトーンが違いますが、どうしていくのがいいか、また考える上でのヒントを、毛受教授からお願いできますか。
毛受教授 教育は本当に難しい。日本語は特殊な言語で、小学校で学ぶ漢字は1,026字あります。皆さん小さい頃から毎週書き取りをして覚えてきた。それを、小学3〜4年で急に海外から来た子が、数週間で教科書を読めるようにはならない。政府はプレスクールでひらがな・カタカナを数週間、という話ですが、それで十分かというと足りない。日本人の子でも塾に通わせて授業について行かせるか、そもそもハンディがある外国人の子では追いつくことは難しい。中国・韓国系は漢字がある分早いと言われますが、数週間でプレスクールに入れて同じクラスに入れても、ついていける子もいれば、いけない子もいる。
明確な答えはないですが、一つ下の学年に入れる、あるいは日本の義務教育では認められていませんが、あえて同じ学年にとどまる(落第する)といったことをしないと、実際には中学まで卒業しても読める漢字は小学2〜3年のまま、という人も結構いる。その子は高校に行けないか、行っても教科書が読めない。学力のないまま社会に出て、非正規の仕事しかつけない、ということになる。一つの考え方は、やさしい日本語の教科書を作ること。漢字を全部覚えてからでは追いつかないので、やさしい日本語でまず全教科の内容を頭に入れる。それからAIをどこまで活用するか。日本語教師の方に「AIが普及したら日本語教師はいらないのでは」と言ったらすごく嫌な顔をされましたが、なくなることはないにせよ、AIを活用すれば意味はさっと分かるようになる。子どもの教育は非常に重要で、今は過渡期。今まで外国人がいなかった学校に急に子どもが来て、経験のない先生が対応せざるを得ないのが現状です。問題の深刻さを受け止め、しっかり予算をつけて対応すべきだと思います。
司会 これは外国人に限らず、日本人の子でも同じで、教育をしっかり受けられないと貧困のスパイラルから抜けられないことがあります。同じように外国人の子もしっかりした教育が受けられなければ同じことになる。先日、橋本財団主催の日本語教育に関するシンポジウムが開催され、先生方がAIをたくさん使っておられる話を聞きました。ツールは増えても、最後は人がやる。市長、病院のことも書いていただいていますので、そのあたりを含めてお願いします。
片岡市長 我々は日系ブラジル人の方に大変な過ちを犯してきました。1990年代、義務教育の年齢――6〜7歳から15〜16歳まで――の彼らを、迎え入れなかった。日本の子には6歳になると就学通知を出し、ランドセルはこれ、教科書はこれ、と連絡するのに、ブラジル人の子には何の通知も出さず、「来るなら来なさい」という程度だった。これから就労制度が変わり、特定技能2号などで子どもがどんどん増える。育成就労で移動も可能になる。義務教育を受けられるかどうかは重要なキーワードになる。皆さん、今まで通り、就学年齢の7歳の子を無視し続けますか。それは人としていいですか。僕はダメだと思う。だから、この国の制度として、外国人の子どもたちを受け入れる制度を作るべきだと思っています。
司会 実体験、過去の過ちからしっかり必要だと感じておられることが伝わりました。義務教育について、国がどうするのか、地方自治体がどうするのか、役割分担もあると思います。
総量規制について
司会 一方、総量規制の話がありました。ある政党が「外国人を何%にすべきではないか」と発言したことが報道で大きく取り上げられたこともありましたし、一方、様々な方が様々なシミュレーションを提示されています。海外では、外国人受け入れに大きな課題を抱え、多文化主義はある失敗だったと首長が言う国もある中で、どれぐらいの方を受け入れるのか。まず市長からお願いできますか。
片岡市長 これは、まだ国として一律に制度を定める時期には来ていないと思います。それぞれ違った弱み――労働力不足、あるいは迎え入れる側の日本人のコンセンサスができていない等――があり、そもそも将来、この円安基調の中で日本が外国人から選ばれる国であり続けられるのか、という見極めがないままに総量を云々するのは、まだ早い。逆に、地方の声をもっと聞いてもらいたいと感じています。
司会 例えば都道府県なのか市町村なのか、その単位で総量を考えることもあり得る、ということでしょうか。
片岡市長 市町村ですね。市町村単位で判断していく。自治体がしっかりハンドルを持つことが必要だと思います。
司会 毛受教授、全体を見ておられると思いますが、総量規制についてどう思われますか。
毛受教授 総量規制は無理ですね。日本人が1年間に90万人超も減っているわけで、それが100万人近く減るときに「今年から外国人はゼロにします」と言ったら、日本の社会は持たない。介護をはじめ様々な産業で社会が回らなくなるのは非常に明確です。人口減少が止められればいいですが、止められない中で供給量が不足すれば、社会が機能不全に陥るのは明らかです。一方で、外国人も、日本語ができて日本人並みに稼げれば、差別の対象になることもなく、普通の隣人として暮らしていけるはずなんです。なぜここまで外国に関する問題が出るかというと、結局、日本人並みに稼げない、日本語ができない人がたくさん増えているから。定住する想定のない中で受け入れ、来る人も定住する想定がない中で来て、しかし結果的に定着してしまっている。だから「定住して日本にしっかり根を張り活躍してください」という明確な方針を出さないと、来る人の腰も据わらず、結局ブラジル人のときと同じことになる。
もう一つ。子どもたちには、やはり日本人になってもらう、ということだと思うんです。いつまでも外国人が外国人の周りにいるのは不自然で、日本語で日本社会に馴染み、日本で稼げる人たちは、日本人になってもらえばいい。社会の構成員として受け入れていくのが当たり前で、いつまでも「外国人、外国人」と言っていること自体が不自然だと私は思います。日本では古来、渡来人の時代から受け入れてきて、その人たちが今みんな日本人をやっている。我々の祖先も、大昔をたどれば大陸から渡ってきた人たちで、彼らが別の国を作ったわけではなく、みんな日本人になった。今、外国人の人たちを日本社会に統合していくのは、実は日本人がずっとやってきたことなんです。日本人が差別的だとは思いません。国の政策がない中で「多文化共生」が全国で進んできたのは、市民社会が外国人をなんとか社会の一員として受け入れていこうという伝統があるからです。その土台があるのだから、あとは国が明確に方針を出して支援し、自治体とも協力しながらやっていくことが本来必要ではないか、と思います。
司会 長い歴史の中でどこを基準にするか、という難しさもありますね。
まとめとメッセージ
司会 先日、東京大学のパネル調査(経年調査)で、外国人受け入れに「反対」という声が非常に多く、特に若い世代で前回より反対が大きく増えたという結果が出ています26。一方、毛受先生の資料の産経調査では、自治体の首長は「地域存続に外国人は欠かせない」と半数以上が答え、外国人が多く住む新宿では「どちらとも言えない」が半分ほど。どれも半分ぐらいで、見る立場によって感じ方がまったく違う。それが今の大きな現状かと思います。
後半のパネルディスカッションでは様々な立場から伺いますが、第1部の締めに、お二人から、賛否が分かれる中での本テーマへのメッセージを一言ずついただければと思います。市長からお願いします。
片岡市長 僕はSNSでこの手の話でよく炎上して「お前バカか」と言われますが、子どもの義務教育に入れる・入れない、総量規制の考え方、皆さんも本当に考えましょうよ。自分の考えを持って決めて、国に届け、足元の市民に説明していくべきです。今は重要な局面で、一部の国会議員や一部の政党だけで決める問題では全然ない。国民的議論の中で、こういう場で外国人の受け入れ方を考えていきましょう。今日は本当にいい機会になると思います。
毛受教授 外国人の犯罪について一つ申し上げたいのは、外国人労働者は非常に搾取されやすい対象だということです。悪質な呼び寄せ・斡旋業者が間に入り、「日本は素晴らしい国で働ける」と思って来たら、実際は全然違うところで働かされる。そこにいられず失踪し、犯罪につながることも実際にあると思う。外国人だけを厳格に取り締まればいい、という話ではない。本来、外国人の多くは犯罪をしに来るのではなく、貧しさや自分の将来を考えて真面目に働きに来ている。それが、騙されることも多く、苦労の結果、道を踏み外してしまう人がいる。その一番の問題点にしっかり手を届かせないと、外国の人が安心して日本に住めない。
もう一つ、若い人の間に排外的な認識があるのは、SNSなどで作られた間違った情報が氾濫していることが大きい。最近、千葉大学の研究者がこれを研究されていて、海外に行った経験のある学生に聞いても、SNSの悪い情報を信じ、影響を受けている結果があるそうです。ちょうど去年の参議院選挙、今年も選挙があった中で、政治的な意図を持った情報が拡散された。それでいいのかというと、僕は間違っていると思う。正しい情報を我々も取捨選択し、周りの人にも伝えていくことが必要で、そこは新しい形での取り組みが必要だと思っています。
※以上、基調対談終了。
編集部まとめ ――「共生」は、すでに始まっている
対談を貫いていたのは、「これは“外国人問題”ではなく、私たち自身の問題だ」という認識である。毛受氏はデータで、日本人が1年に90万人超も減り、その約4割を外国人の増加が補っている現実を示した。片岡市長は、ブラジル人との四半世紀を振り返りながら、制度の空白を現場が身銭を切って埋めてきた歴史を語った。人口が減り続ける以上、外国人材に「来てもらわなければ社会が維持できない」――それは、好むと好まざるとにかかわらず、すでに動き始めている現実だ。
そのうえで二人が口をそろえたのは、「国が解決してくれるのを待つのではなく、自治体が、そして現場が動くしかない」ということだった。総社市が積み上げてきた――病院への付き添い、日本語教育、外国人防災リーダーの育成、年8,000件を超える相談のワンストップ受付――それらはすべて、国の制度が届かないところを市が自前で埋めてきた営みだった。制度設計を待つのではなく、目の前の一人に向き合うこと。その積み重ねが「共生」の実体をつくる。
同時に、行動を求められているのは行政だけではない。毛受氏は「何年住んでも日本人との付き合いが全くない外国人が非常に多い」と指摘し、地域の一人ひとりがどれだけ胸襟を開くかが、その人がまちに根を張るかどうかを分ける、と語った。企業が地域と外国人の間に立つこと、隣人が笑顔で挨拶すること、正しい情報を選び取って周囲に伝えること――大きな制度論と同じ重さで、そうした小さな行動の一つひとつが問われている。
賛成か反対か、総量規制をどうするか――答えの出ない問いは残る。だが、はっきりしていることが一つある。外国人材との共生は、これから始めるかどうかを選べる「未来の選択肢」ではなく、すでに私たちの地域で始まっている「現在進行形の現実」だということだ。その現実にどう向き合い、どう関わるか。片岡市長が会場に問いかけ、大きな拍手が返ったあの瞬間のように、一人ひとりが“自分ごと”として動き出せるかどうかに、地域の未来はかかっている。(編集部)
- 吉備学会https://kibigaku.org/ ↩︎
- 総社市「市長プロフィール」https://www.city.soja.okayama.jp/soshiki/1/1003.html ↩︎
- 毛受敏浩https://menju.jp/ ↩︎
- 多文化共生都市会議の概要(外国人集住都市会議)https://www.shujutoshi.jp/gaiyou/index.htm ↩︎
- 静岡県「知事プロフィール」https://www.pref.shizuoka.jp/kensei/introduction/governor/1064385.html ↩︎
- 出入国在留管理庁「令和7年末現在における在留外国人数について」https://www.moj.go.jp/isa/publications/press/13_00062.html ↩︎
- 三菱UFJリサーチ&コンサルティング「加藤 真」https://www.murc.jp/service/professionals/38141/ ↩︎
- 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」https://www.ipss.go.jp/pp-zenkoku/j/zenkoku2023/pp_zenkoku2023.asp ↩︎
- 厚生労働省「賃金構造基本統計調査(令和6年)」/「外国人雇用状況の届出状況(令和7年)」https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chinginkouzou.html ↩︎
- 文部科学省「「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査(令和7年度)」の結果について」https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/31/09/1421569_00007.htm ↩︎
- 産経新聞「日本を守れるか」 外国人「地域に影響ある」70%、「存在欠かせない」54% 全国市区町村長アンケート(2026/1/1 06:00)https://www.sankei.com/article/20260101-EFSGRFAJZBNVVOKHJ7EPJRGYBY/ ↩︎
- 群馬県「群馬県多文化共生・共創推進条例」(2021年4月1日)https://www.pref.gunma.jp/site/tabunka/4060.html ↩︎
- 高知県「高知県福祉・介護事業所認証評価制度のご案内」(2023年12月07日)https://www.pref.kochi.lg.jp/doc/2017112800150/ ↩︎
- 高知県「「高知家・多文化共生推進プラン~ともいき社会を目指して~」の策定について」(2026年03月30日)https://www.pref.kochi.lg.jp/doc/kochifamilytabukaplan/ ↩︎
- 新宿区「新宿区多文化共生まちづくり会議」(毛受教授は2026年現在、副会長)https://www.city.shinjuku.lg.jp/tabunka/tabunka01_001002.html ↩︎
- 新宿区「住民基本台帳人口 町丁別人口(5歳階級)」25歳~29歳が最も多い。https://www.city.shinjuku.lg.jp/kusei/file02_00026.html ↩︎
- 新宿区「新宿区の人口」https://www.city.shinjuku.lg.jp/kusei/index02_101.html ↩︎
- 新宿区「令和5年度 新宿区多文化共生実態調査 報告書」https://www.city.shinjuku.lg.jp/content/000389431.pdf ↩︎
- 大崎市立おおさき日本語学校https://www.osaki-jls.com/about/ ↩︎
- 新宿区「住民基本台帳人口 外国人住民国籍別男女別人口」https://www.city.shinjuku.lg.jp/kusei/file02_00029.html ↩︎
- 総社市「国際交流イベント「SOJA INTERNATIONAL FESTA 2026」」https://www.city.soja.okayama.jp/soshiki/14/23225.html ↩︎
- 出入国在留管理庁「令和6年における難民認定者数等について」難民と認定した者は190人。https://www.moj.go.jp/isa/publications/press/07_00054.html?hl=en ↩︎
- 法務省「都道府県別ウクライナ避難民在留者数」(2026年9月30日現在)https://www.moj.go.jp/isa/content/001373694.pdf ↩︎
- brIDgeニュース(共同通信)「倒壊家屋に下敷きの高齢女性救助 熊本・八代市、ベトナム人ら協力」https://bridgejapan.net/1709/ ↩︎
- 朝日新聞「消滅可能性自治体の一覧」https://www.asahi.com/special/population2024/list/ ↩︎
- brIDgeニュース(共同通信)「「外国人受け入れ反対」大幅増 東大調査、若い世代で多く」https://bridgejapan.net/1777/ ↩︎

















