永住許可の厳格化案は公正か

2026年8月4日、入管庁は永住許可に関するガイドラインの改訂案を公表した。その内容は、現在のガイドラインと比較して、大幅な厳格化となっている。これまでも永住許可には独立生計要件が課されていたが、改訂案では、その内容として「日本人と同等水準以上の経済条件」を求めることを明記し、具体的には、収入が「日本人世帯の平均収入を上回る水準の額に継続して達」していること、および年金の「将来の見込額が上記の平均年収水準で30年間厚生年金に加入していた水準」に達することを要件とするとした。それ以外にも、日本語要件や、日本人や永住者の配偶者等に対する居住要件の特例を厳格化するとしている1

これらは、政府が、特定技能制度の創設や来年から始まる育成就労制度を中心に、外国人労働者の受け入れ拡大を進めるなか、かれらが定住化し、将来的に日本社会で高齢化することを想定し、その際に生活保護の受給を制限できるように見越した改訂といえるだろう。これらの外国人労働者の場合、もともとの在留資格は「特定技能」や「育成就労」であり、これらの在留資格では生活保護は認められていない。そのため「育成就労」→「特定技能1号」→「特定技能2号」→「永住者」という経路が確立されたものの、かれらに生活保護が認められるのは「永住者」の資格を取得してからである。そこで政府は、この「永住者」の資格許可を厳格化することによって、将来、生活保護を受給する「リスク」が高くなると予測される移民が「永住者」を取得できないように計画していると考えられる。

だが、その際に提案された上記のガイドラインは公正なものだろうか。確かに外国人が、日本人と同じような形で生活保護を認められるのはおかしい、という意見もあるかもしれない。この点については、長年、日本社会で働いてきた人は日本社会の住民であり、住民としての権利義務関係が要請されるはずである。しかし本稿で指摘したいのは、外国人と日本人の格差に加え、同じ制度で働く外国人同士の間に生じうる不平等についてである。

まず収入要件だが、特定技能労働者の場合、日本人従業員と同等の水準であることが定められている。したがって理論上は、外国人労働者は、同じ職場で働く「日本人と同等水準の経済条件」を得られるはずである。だが、それが「日本人世帯の平均収入」を上回るかはわからない。というのも外国人労働者を受け入れている産業分野によって、平均給与額が大きく異なるからだ。そもそも賃金は労働者の人的資本だけで決まるのではない。むしろジェンダー、産業、企業規模、雇用形態等に大きく規定されている。このうちジェンダーについては、日本では、正社員同士で比較しても、女性の給与水準は、男性の給与水準の約77.6%にとどまっている2。また産業分野ごとの平均賃金については、特定技能の分野として認められている産業の中でも、宿泊業、飲食サービス業は25.95万円、介護が含まれる医療・福祉は29.8万円と平均の31.83万円より低いのに対し、建設業は34.94万円と平均を上回っている3。特定技能や育成就労では産業分野を超えた転職は困難であるから、一旦働き始めた分野で就労を継続する場合が多い。とすると、相対的に平均賃金が低い産業分野で就業を開始した外国人労働者が「永住者」資格を取得することは著しく困難になるだろう。

こうして同じ特定技能労働者であっても、ジェンダーや働く分野によって「永住者」資格の取りやすさが大きく異なってくることになる。この格差は、ジェンダー差別や産業別格差に基づく収入格差を、外国人自身の責任に転嫁してかれらの永住資格へのアクセスを規制するものであり、公正とはいえない。

最後に、このように産業によって永住資格を許可されやすい分野とそうでない分野が出てくることは、翻っては、外国人労働者に限らず、その産業分野にたいする人々のまなざしや、当該分野で働く人たちの尊厳にもかかわるのではないだろうか。そのように考えると、永住許可の厳格化は、外国人労働者だけに限らず、日本社会全般にかかわる問題といえるだろう。

  1. 詳細はこちら(永住許可に関するガイドライン改定案に係る意見募集について)を参照。https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/detail?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=315000140&Mode=0 ↩︎
  2. 内閣府男女共同参画局「男女間賃金格差(我が国の現状)【図1】」https://www.gender.go.jp/research/weekly_data/07.html ↩︎
  3. 独立行政法人労働政策研究・研修機構「産業別、企業規模別にみた賃金―令和5年賃金構造基本統計調査結果から―」https://www.jil.go.jp/kokunai/blt/backnumber/2024/05/c_01.html ↩︎

髙谷 幸(たかや・さち)

東京大学大学院准教授

専門は社会学・移民研究。日本における外国人や非正規移民、移民女性、移民政策などを研究し、社会の境界線による排除や周縁化、人々の連帯のあり方を幅広く論じる。著書に『追放と抵抗のポリティクス』(ナカニシヤ出版)など。