境港市産業部水産商工課取材
取材実施:2026年8月26日
鳥取・境港市。人口3万2千人、面積29平方キロメートルの小さな港町は、多文化共生を「国際交流課」ではなく「水産商工課1」に置いた。産業を守ることと、人として迎えること。その二つを一つの窓口でつなぐ現場を訪ねた。
境港市の外国人材――基礎データ(2026年8月取材時)
●まちの規模: 人口 約3万2千人/面積 約29km²。鳥取県の西端に位置し、島根県松江市・中海圏と生活圏を共有する港町。
●外国人住民: 747人(総人口比 2.35%)、18の国と地域から(2026年3月末)。国籍(上位): ベトナム 347/フィリピン 89/インドネシア 73 ほか。近年はインドネシア・カンボジア・ミャンマーが増加傾向。
在留資格: 技能実習 275人(約37%)/特定技能1号 217人 ほか。技能実習と特定技能1号が拮抗しつつある。
●基幹産業: 水産業・水産加工業。日本有数の水揚げ量を誇る境漁港を有し、水産加工業が集積する。カニの水揚げ量は全国一位、生の天然クロマグロも全国屈指の水揚げを誇る。外国人材は水産加工を中心に、船員・介護など多分野へ広がる。
●多文化共生の所管: 水産商工課。産業振興と多文化共生を一つの課で担う。主な施策: 市直営の日本語教室(2018年度〜)/夏・冬の交流会(2017年度〜)/境港市生活マップの作成・やさしい日本語での情報発信/市独自の住環境整備支援補助金(県補助の対象外となる既受け入れ事業所を支援)。
境港市の外国人は747人。総人口のおよそ2.35%にあたり、18の国と地域から来ている(2026年3月末時点)。数字だけを見れば、全国の平均的な地方都市と大きく変わらないかもしれない。
だが、この町で外国人材が担っているものの重さは、比率だけでは測れない。境港は、日本海有数の水産都市である。水産・水産加工業がまちの基幹産業であり、その現場を、いま多くの外国人材が支えている。市の水産商工課の担当者は、開口一番こう言い切った。
「本市の基幹産業である水産業と水産加工業では、日本人の求人だけでは必要な労働力の確保が現状難しい。外国人材の活用は人材不足の解消につながる。事業所にとっても市としても、外国人材は本市の産業にとって必要不可欠なものだという認識です」
「あったほうがいい」ではない。「なければ成り立たない」。取材の最後に担当者が漏らした一言が、この認識を最も率直に表していた。
「本市は『さかなと鬼太郎のまち境港市』としてまちづくりに取り組んでおり、基幹産業である水産業に活気がないというわけにはいかない。鬼太郎だけで頑張るのは、ちょっと厳しい」
観光資源として全国に知られる水木しげるロードを引き合いに、なかば冗談めかして語られたその言葉には、水産のまちが抱える切実さがにじんでいた。加工業も漁も高齢化が進み、若い担い手は減り続ける。「一定量の方には来ていただかないと維持できない」。それが、境港が外国人材の受け入れに向き合う出発点である。
なぜ「水産商工課」が多文化共生を持つのか
境港市の体制で、まず目を引くのがこの点だ。多くの自治体で外国人施策は企画部門や国際交流部門が所管する。だが境港市では、産業振興を担う水産商工課が、多文化共生も併せて所管している。
もともとは企画部門にあったという。平成10年に通商部門へ移り、国際貿易港と漁港を抱える産業の実態に合わせて、産業部門が国際関係を持つようになった。度重なる機構改革を経て、いまは水産振興と商工(産業振興)を一つの課が担い、そこに多文化共生が収まっている。
一見すると珍しいこの配置は、現場ではむしろ合理的に働いている。担当者はその利点を「ワンストップ」と表現した。
「水産振興も、産業振興の商工部門も一つの課で持っている。漁業や水産加工業以外の他業種とも、一つの課で横の展開がしやすい。行政や広報を一体で持つ意味合いは大きい」
外国人材の受け入れは、雇用・産業・生活・国際交流が絡み合う。それらが別々の課に分かれていれば、事業者の相談は窓口をまたいでたらい回しになりやすい。産業と共生を同じ課に置くことで、境港市は「産業を続けるための共生」という一貫した軸を持てている。組織のかたちが、政策の思想を規定しているとも言える。他自治体が体制を考えるうえで、示唆に富む先行例だ。
「顔が見える」を、事業に落とし込む
境港市の共生施策の中心にあるのは、徹底して具体的な「接点づくり」である。
市直営の日本語教室は2018年度(平成30年度)末に始まった。受け入れ機関やボランティアの協力で運営し、参加する外国人材の会話力を高めるだけでなく、ボランティアも含めて双方の交流の場になっているという。
季節の交流会は、もとは水産業界からの声かけで2017年度(平成29年度)に始まり、いまは業種を問わず、介護で働く人なども加わる。夏は浴衣の着付け、茶道体験、日本料理づくり、冬はカラオケ大会。先日の夏の交流会では、市内の高校生が作った交通安全かるたも一緒に楽しんだ。バドミントン大会やフォトコンテスト、公民館へ出向いて行うベトナム料理の振る舞い――。そして9月13日には、地域の日本人と外国人材が一緒に汗を流す合同運動会を開く。玉入れのような、あえて「ベタベタの日本の運動会」を。






こうした催しは、単なる異文化イベントではない。担当者の言葉には、共生がうまくいくかどうかを分ける核心があった。「地域住民の方と外国人材の方が、別々に、知らない者同士のような感じで住んでいると、問題も出てくる。できるだけ仲良くするための接点を生む事業を考えている」
市内には7つの地区がある。市は、地区で行う催しにはできるだけ同じ地区に住む人が参加できるよう配慮しているという。顔を合わせ、名前で呼び合える関係になること。それが、地域の側の心理を大きく変えるからだ。取材者が各地で感じてきたことと、それは重なる。「何人かベトナム人がいる」という認識のうちはうまくいかない。だが「◯◯さん」と個人が見えるようになれば、事態はまるで違ってくる。
「その場が楽しいので。共同作業でもやれば、分かり合える」若い世代がいることを、境港市はむしろ地域の資源として捉えている。
20歳前後の担い手が地域行事に加わることは、高齢化するまちにとって貴重な活力だ。もちろん、摩擦がないわけではない。ゴミ出しの習慣の違い、夜間の騒音、家の前へのタバコのポイ捨て。近隣から相談が入れば、市や事業所が一緒に対応する。ただ担当者の受け止め方には、過度に問題化しない冷静さがあった。「20歳そこそこの若い子がたくさん集まって集団で住んでいたら、そうなる部分もある。正直、日本人でも同じですよね」
外国人だから起きる問題として切り離すのではなく、若者の集住という普遍的な条件として捉える。この距離感は、共生施策がスティグマ(負の烙印)を強めずに済むかどうかを左右する、実務上の勘所である。
災害という試金石
「顔が見える」関係は、平時だけの話ではない。取材の直前の週末、日本海側の各地で地震が続いたこともあり、話は防災に及んだ。境港市は、Facebookでは「やさしい日本語」による情報発信を続けている。原子力防災の避難訓練に外国人材が参加する機会を設け、日本語教室と連動した防災フェアで消防・防災を学ぶ場も作ってきた。ただ担当者は、それで十分だとは考えていない。
「今はまだ大きな災害が起きていないから、避難所に行く人はいないと思う。でも、いざ大きな災害となれば、日本人が避難するだけでも大パニック。外国の方はなおさら混乱する。過去の事例に学び、自分のところに落とし込んでいかなければならない」
一方で、若い外国人材は災害時の「支援力」にもなり得る。取材者は、2016年の熊本地震で外国人コミュニティが被災地支援に動いた事例に触れた2。境港の担当者も、平時からの多角的な備えの延長線上に、その可能性を見ている。防災は、共生施策が試される最も厳しい局面であり、同時に、共生の蓄積がまちを守る力に変わる局面でもある。
ここまでが、境港市が積み上げてきた「顔が見える共生」の実践である。だが取材の後半、話が国の制度に及ぶと、担当者の口調にはっきりと危機感がにじんだ。積み上げてきたものを、制度の変化が足元から揺るがしかねないからだ。
「お金では勝てない」――育成就労という難題
最も強い懸念が示されたのが、技能実習に代わる育成就労への移行と、それに伴う転籍の自由化だった。本人の意向で職場を移れるようになれば、賃金で都市部に太刀打ちできない地方は、いっそう人材の確保・定着に苦しむ。担当者の言葉は率直だった。
「お金では勝てないので、それ以外のところで。住居の環境は補助金で柔軟に出せるので、それをベースに、どんな魅力があるか。ソフト面をしっかり」
移動の自由化は、外国人材の権利保護の観点からは前進である。だが同時に、それは地方から都市への人材流出を制度的に後押しする側面を持つ。担当者が「地方都市にとって怖い制度」と表現したこの緊張は、境港市だけの問題ではない。地場産業を外国人材で支えてきたすべての地方自治体が、いま同じ問いの前に立っている。
制度の穴を、自前で埋める
注目すべきは、境港市がこの難題に対して、すでに具体的な手を打っている点だ。
鳥取県は外国人材の定着を目的に「外国人材の住環境整備支援補助金」を新設した。だがこの制度は、新規に受け入れる企業や増員する企業のみが対象である。既に多くの外国人材を受け入れてきた市内の事業所は、対象から外れてしまう。そこで境港市は、県補助に該当しない市内事業所を支える市独自の補助金を創設した。
さらにこの補助は、市長が公約に掲げてきた空き家対策とも接続している。大きな古民家を数人でシェアするといった住まい方を視野に、改築費用を補助できるようにした。空き家という地域課題と、外国人材の住まいのニーズを、一つの政策で結ぶ発想である。しかも、地域に人が住めば、町内会や公民館との接点も自然に生まれる。共生の観点からも理にかなっている。
県の制度が届かないところに、市が自前で網をかける。この「補完のかたち」は、国・県・市の役割分担のなかで基礎自治体に何ができるかを考えるうえで、具体的なモデルになる。
生活圏と制度が、ずれている
もう一つ、担当者が「国に強く要望していきたい」と語ったのが、県境の壁だった。
育成就労では、入国後に登録日本語教員による講習の受講が必須となる。だが、その教員の確保自体が容易ではない。加えて、日本語能力試験(JLPT)は、境港市からは県東の鳥取大学まで足を運ばなければならない。地図の上では、県境を越えた島根大学のほうがはるかに近いにもかかわらず、である。
「生活圏では島根大のほうが近いのに、受験ができない。こうした状況の改善を、国に強く要望していきたい」
同じ「ずれ」は、消防・救急の管轄にも及ぶ。県境をまたぐ地域では、近くの境港市からではなく、遠方の管轄から救急が向かうために時間がかかる、という話も出た。行政の区割りと、人々が実際に暮らす生活圏とが一致していない。日本語試験も、救急も、根は同じである。生活圏を単位に制度を柔軟化してほしい――それは、県境に接する多くの自治体に共通する切実な要望だろう。
制度の締め付けは、地域の足元の暮らしにも影を落とす。経営管理ビザの資本要件引き上げをめぐっては3、既存の事業者への影響を担当者も気にかけていた。安くてボリュームのある中華料理店やネパール料理店が、地域で働く人々の生活コストを静かに支えている。そうした店が規制強化で姿を消せば、外食の選択肢と価格に跳ね返る。共生とは、日本語教室や交流会だけでなく、こうした日々の暮らしの手触りの総体でもある。
外国人材も日本人もお互いの顔が見える地方の良さ
取材の締めくくりに、地場産業を守りながら外国人との共生を進めることについて、まとめの一言を求めた。担当者の答えは、飾りのないものだった。「外国人材も、私たちと同じ地域で共に生活し、地場産業を一緒に盛り上げている仲間です。本市は約3万2千人、面積約29平方キロメートルの小さな町。国籍や言葉の壁を越えて、外国人材も日本人もお互いの顔が見えるという、地方なりの良さを生かして、共に支え合い、生きていける共生社会を目指していきたい」
「仲間」。労働力でも、受け入れの対象でもなく、まちを一緒に盛り上げる仲間として位置づける。人口3万2千人という規模だからこそ、一人ひとりの顔が見える。その小ささを、境港市は弱みではなく強みとして引き受けている。もっとも、この理念だけでまちが持続するわけではないことを、担当者自身がよく分かっている。育成就労による転籍、登録日本語教員の確保、JLPTの会場不足、住環境整備の財源、そして人材の大都市への流出。理念を支えるための制度が、いま揺らいでいる。
投資家ジム・ロジャーズの「移民を受け入れない国は滅びる」という言葉を引きながら4、取材者と担当者が確かめ合ったのは、この問題が結局、地方創生と地方の生き残りに直結しているという一点だった。外国人材を迎えることは、もはや理念や善意の問題である前に、まちが存続できるかどうかの問題になっている。
境港市の答えは、明快だ。境港市は基幹産業である水産業に活気がなくてはならない。だから、仲間として迎える。産業を守ることと、人として迎えること。その二つを一つの窓口でつなぎ、県が届かないところに市が手を伸ばし、生活圏に合わない制度には声を上げる。小さな港町の実践は、外国人材なしには成り立たなくなった多くの地方都市にとって、決して「よその話」ではない。(編集部)
- 境港市産業部水産商工課:企業・子業者支援、雇用労働、消費生活相談、貿易から、多文化共生、国際交流までを担当している。https://www.city.sakaiminato.lg.jp/?view=7004 ↩︎
- brIDge・視点「災害支援の専門家に聞く「2016年地震から外国人急増で何が変わったか」」https://bridgejapan.net/1728/ ↩︎
- 出入国在留管理庁「在留資格「経営・管理」に係る上陸基準省令等の改正について」https://www.moj.go.jp/isa/applications/resources/10_00237.html ↩︎
- PHP「お金の流れで読む 日本と世界の未来 世界的投資家は予見する」著者 ジム・ロジャーズ、訳者 大野和基(
2019年01月15日)https://www.php.co.jp/books/detail.php?isbn=978-4-569-84221-9 ↩︎




















