多文化共生の専門家・田村太郎が語る、自治体が直面する現実と可能性
「地域の腕の見せ所」――自治体が秩序ある共生を実装するために
インタビュー実施:2026年6月3日
前編では、田村太郎氏が参議院法務委員会の参考人として訴えた入管法改正の課題—手数料増収分がそのまま外国人との共生社会に充てられるわけではないこと、アセスメントの制度化が急務であること、そして有識者会議で毎年「データがありません」と繰り返されてきた現実—を中心にお伝えした。
では、自治体は具体的に何をすべきか。後編では「解決策」に踏み込む。全国を300ほどのクラスターに束ねる広域連携、デジタル化によるコスト低減、「ヘイト」と「不安」の線引き、そして「外国人が増えていることは地域のチャンスだ」という田村氏の地域戦略論。「外国人との共生施策は法定事務ではない。だからこそ、自治体職員の腕が試される」—その言葉の意味を、境港・浜松の実例とともに聞いた。
第4部 広域連携とデジタル化——自治体が取り組むべき具体策
自治体が現実的にできることは何ですか?
今の相談窓口は全国480か所程度(自治体または国際交流協会等が設置している外国人相談窓口)1ですが、自治体は1,700ある。1,700全部に窓口を作る必要はない。私が長年言っているのは、2次医療圏ぐらいの広域ブロック2、全国300ほどのクラスターに分けて、そこに相談窓口と日本語教育の拠点を置くということです。
水道やごみ処理、消防などを複数の市町村で組合を作って運営しているように、「外国人アセスメント組合」のような広域組合を作って、10市町ぐらいで合同でやる。そこにちゃんと国からも予算をつけて、システムも入れる。そこで生活オリエンテーションや日本語教育の状況を確認していく。そこまでやらないと回らないと思います。
例えば備後圏域では、福山市と周囲の市町が一緒に「びんご圏域多文化共生推進ビジョン」を作っています。3そういうモデルを全国に広げていくべきです。
デジタル化を進める意義はどこにありますか?
初期費用がかかるから負担ばかり強調されるけれど、デジタルを入れることで中長期的にコストは下がるはずです。JESTAを入れて不法滞在者が減れば摘発・送還のコストがかからなくなる、と政府は主張していますそのコストは中長期の在留者の支援に回せる。デジタル化とは、本来、そういう設計思想のはずです。
住基やマイナンバーと紐づけたシステムで、誰がどの支援を受けているか、どこに漏れがあるかを把握できるようになれば、アセスメントも現実的になってくる。改正入管法が成立し、今年度中に手数料の値上げが実施される予定です。世帯毎に状況をアセスメントし、減免対象となる世帯を把握する仕組みを整える必要があります。
第5部 ヘイトスピーチと事実に基づく議論
外国人に関するデマや排外的な言説が広がっています。これにどう対処すればいいですか?
2つあります。一つは、政府がちゃんと統計を出すこと。「健康保険の未納が多い」「年金にタダ乗りしている」「犯罪者が増えている」——これが事実かどうか、年に1回きちんとデータで示す。有識者会議でも繰り返し言ってきましたが、まずそうした統計がそもそもない、という問題がある。事実に基づいてコミュニケーションを取る文化を根付かせていかないといけない。
もう一つは、表現の自由とヘイトの境目をはっきりさせることです。「外国人が近所に増えて不安だ」という表明はしていい。その不安を「差別だ」と言われたらたまらない。不安は不安として表明でき、不安だと思うことの背景を統計などで確かめる。事実と異なることを広めたり、「外国人は犯罪者だから帰れ」といった言動を行ったりすることはヘイトとして取り締まる。そこの線引きをはっきりさせなければいけない。
この状況を歴史的に見るとどうでしょうか?
1920年代に似ていると思っています。日韓併合後も日本で暮らす朝鮮半島出身者はそれほど多くなかった。それが第1次世界大戦後の不況の影響などから、1922〜23年にかけて朝鮮半島から日本に来る人4がものすごい勢いで増えた。そこに関東大震災が起きた。なぜあのような虐殺事件が起きたのか——急に増えて不安が蔓延しているところに災害が起き、そこにデマが加わった、というのが真相だろうと思います。
今、外国人の数はこの3年で100万人増えています。5一方で、株価は上がっているが景気は冷え込んでいる。「外国人が増えて、自分たちは不幸になった」という感覚が広がりやすい状況は、極めてあの時代に近い。そこは正直、怖いなと思っています。
不安を表明してはいけないと言うと、逆効果になる。不安は不安として認めながら、事実でないことには事実でしっかり対抗し、ヘイトは取り締まる。その両立が必要です。
第6部 地方の「腕の見せ所」——地域戦略としての多文化共生
自治体職員として、今回の改正を機に何を備えておくべきでしょうか?
国が責任を持って日本語教育や社会規範を学ぶプログラムを創設すると言っている。日本語教育や生活支援は「社会インフラ」です。道路と同じです。太い大きな国道は国が作る。でも県道・市道は地域が作らなきゃいけない。国がインフラをある程度整えると言っているので、あとは地域でどうするか、それぞれで考えていく段階に来ています。
国が一番現場から遠いわけですから、自治体には現場からの積み上げで「こうしろ、ああしろ」と言えるぐらいの勢いが欲しい。私が政府に関わっているのも、自治体や経営者の声を現場で聞いて、それをきちんと制度に反映させたいからです。
地域戦略として、実際にうまくいっている事例はありますか?
地方の方がむしろお尻に火がついているから積極的ですね。例えばここ、米子の隣の鳥取県の境港は、水産商工課が多文化共生を担当している。市内在住の外国人の多くはベトナム人の水産加工従事者。6水産商工課にベトナム人の国際交流員が1人いて、スポーツを通した国際交流や日本語教室を担当している。面白いなと思うけど、それは地域の戦略ですよ。
以前、幕末研究をしている京都大学の奈良岡聰智先生とセッションをやったことがある。7地方こそ世界とつながるべきだと言っていた。「長州ファイブ」もそうだし、薩摩が強かったのも海外と貿易していたからだと。地方こそ世界とつながって力をつけてきた、と。それはそうだなと思います。
浜松が言っているインターカルチュラルシティも、本質は都市政策なんですよ。欧州評議会が2008年に打ち出したプロジェクト8ですが、あれは地域づくりの指標であって、自治体施策なんです。国がやってくれないから難しいというのは一理あるけれど、国がインフラをある程度整えます、となった今、自治体こそが地域戦略を打ち出せる好機です。
やろうと思えばいいものができる。国がああしろ、こうしろと言う以上のことだってできてしまうから、楽しいはずなんです。やればやるだけ良くなる分野です。
(2026年6月3日)
田村氏の話を聞いて、「秩序ある共生」という言葉の重さを改めて感じた。それは外国人を「管理する」という発想ではなく、「放置しない」という意思表明でもある。データもなく、アセスメントもなく、財源の仕組みもないまま外国人が増え続けることこそが、最大の「無秩序」だからだ。
参考人招致で田村氏が訴えたことは3つに集約される。手数料値上げの恩恵を実際の支援に回す仕組みを作ること、省令に丸投げされている制度設計の議論の場を作ること、そしてアセスメントを制度化すること。この3点が実現しなければ、「秩序ある共生」は掛け声に終わる。
その実装の鍵は、全国1,700の市町村にある。法定事務でないからこそ、自治体の「腕の見せどころ」だと田村氏は言った。関東大震災の歴史が示す警告を頭に置きながら、今こそその腕を振るう時である。(編集部)
- 一般財団法人自治体国際化協会 全国の外国人相談窓口 全国の外国人相談窓口(Excelファイル) (クレア)https://www.clair.or.jp/tabunka/portal/consultation-offices-nationwide/ ↩︎
- 厚生労働省 第8回第8次医療計画等に関する検討会 令和4年5月2 5日 資料1 医療圏、基準病床数、指標についてhttps://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000946893.pd ↩︎
- 福山市 びんご圏域多文化共生推進ビジョンhttps://www.city.fukuyama.hiroshima.jp/soshiki/tayouseisyakai-suishin/360170.html ↩︎
- 国立社会保障・人口問題研究所 戦前の在外邦人数統計林玲子 https://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/21770303.pdf ↩︎
- 出入国在留管理庁 令和7年末現在における在留外国人数についてhttps://www.moj.go.jp/isa/publications/press/13_00062.html ↩︎
- 境港市水産商工課https://www.city.sakaiminato.lg.jp/?view=7004 ↩︎
- 第15回 京都大学公共政策大学院・JIAM連携セミナー「地域間交流の果たしてきた役割と 多文化共生のこれから」を開催しましたhttps://www.sg.kyoto-u.ac.jp/sg/events/7758/ ↩︎
- 浜松市 インターカルチュラル・シティ・プログラム(ICC)とはhttps://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/kokusai/uclg/icc.html ↩︎

田村 太郎
一般財団法人ダイバーシティ研究所 代表理事
内閣府「外国人材の受け入れ・共生に関する有識者会議」委員。2020年より同会議メンバーとして政策立案に関与。2026年5月、参議院法務委員会に参考人として招致。全国の自治体・企業に向けた多文化共生の実践に取り組んでいる。
















